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■労働基準法第109条(記録の保存)について確認する。

<条文>

(記録の保存)

第109条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。

 

第143条 第109条の規定の適用については、当分の間、同条中「5年間」とあるのは、「3年間」とする。

2 第114条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「5年」とあるのは、「3年」とする。

3 第115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から3年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から3年間」とする。

<趣旨>

 この第109条は、労働者の権利関係や労働関係に関する紛争を解決するためと監督上の必要から、その証拠を保存する意味で、使用者に労働者名簿や賃金台帳その他労働関係に関する重要な書類を5年(当分の間は3年)間保存する義務を定めています。

 

<POINT1.雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類>

 労働関係に関する重要な書類には、労働者名簿、賃金台帳のほか、次のようなものが該当します。

(1)雇入れに関する書類

①雇入決定関係書類、②契約書、③労働条件通知書、④身元引受書 等

(2)解雇に関する書類

①解雇決定関係書類、②解雇予告除外認定関係書類、③予告手当または④退職手当の領収書 等

(3)災害補償に関する書類

①診断書、②補償の支払、③領収関係書類 等

(4)賃金に関する書類

①賃金決定関係書類、②昇給・減給関係書類 等

(5)その他労働関係に関する重要な書類

①出勤簿、②タイムカード等の記録、③労使協定の協定書、④各種許認可書、⑤始業・終業時刻などの労働時間の記録に関する書類(使用者自ら始業・終業時間を記録したもの、⑥残業命令書及びその報告書並びに労働者が自ら労働時間を記録した報告書)、⑦退職関係書類、⑧休職・出向関係書類、⑨事業内貯蓄金関係書類 等

 

<POINT2.5年間>

(1)保存期間

 労働者名簿、賃金台帳のほか、労働関係に関する重要な書類の保存期間は、「3年間」とされていましたが、労働基準法の改正により、令和2年4月1日から「5年間」と改正されました。ただし、当分の間、「3年間」とされています(法143条)。

(2)保存期間が適用される記録等

 POINT1.に掲げた書類のほか、施行規則によって次に掲げる記録等も(1)の保存期間が適用されます。

①時間外・休日労働協定における健康福祉確保措置の実施状況に関する記録(施行規則17条2項)

②専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(施行規則24条の2の2第3項4号)

③企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(施行規則24条の2の3第3項4号)

④企画業務型裁量労働制等に係る労使委員会の議事録(施行規則24条の2の4第2項)

⑤年次有給休暇管理簿(施行規則24条の7)

⑥高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(施行規則34条の2第15項4号)

⑦高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(施行規則34条の2の3)

⑧労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則2条)

⑨労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則4条)

(3)保存期間の起算日

 保存期間の起算日については、書類の種類によって、次のように定められています(施行規則56条1項)。

①労働者名簿については、労働者の死亡、退職または解雇の日

②賃金台帳については、最後の記入をした日

③雇入れまたは退職に関する書類については、労働者の退職または死亡の日

④災害補償に関する書類については、災害補償を終わった日

⑤賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日

 

(4)保存期間の起算日についての例外

 保存期間の起算日の原則は、上記(3)のとおりですが、賃金台帳または賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存すべき期間の計算については、その記録に係る賃金の支払期日が、賃金台帳に最後の記入をした日または賃金その他労働関係に関する重要な書類が完結した日より遅い場合には、賃金支払期日を起算日とします(施行規則56条2項)。

 例えば、賃金計算期間を毎月1日から当月末日まで、賃金支払期日を翌月10日としている場合、タイムカードの記録は月末で完結しますが、その記録に係る賃金支払日は翌月10日ですから、保存の起算日は翌月10日となります。

 この「賃金支払日が、賃金台帳への最後の記入をした日または重要な書類が完結した日より遅い場合」についての例外取扱いは、上記(2)に列挙した記録等のうち、次に掲げる記録等についても準用されます。

②専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(施行規則24条の2の2第3項4号)のうち労働時間の状況に関する記録

③企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(施行規則24条の2の3第3項4号)のうち労働時間の状況に関する記録

④企画業務型裁量労働制等に係る労使委員会の議事録(施行規則24条の2の4第2項)

⑤年次有給休暇管理簿(施行規則24条の7)

⑥高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(施行規則34条の2第15項4号)のうち、同意及びその撤回、使用者との間の合意に基づき定められた職務の内容、労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額、健康管理時間の状況、休日確保措置の実施状況並びに選択的措置の実施状況に関する対象労働者ごとの記録

⑦高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(施行規則34条の2の3)

⑧労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則2条)

⑨労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則4条)

 

 この条で定める書類は、使用者が事業の廃止、譲渡その他法の適用を受けなくなった後でも、所定の期間は引き続き保存しなければなりません。

 記録の保存においては、個人情報の取扱いに慎重な態度が必要です。

 なお、「個人情報の保護に関する法律」(以下「個人情報保護法」といいます。)は、平成15年5月に公布され、平成17年4月に全面施行された後、情報通信技術の発展や事業活動のグローバル化等の急速な環境変化により、制定された当初は想定されなかったようなパーソナルデータの利活用が可能となったことを踏まえ、「定義の明確化」、「個人情報の適正な活用・流通の確保」、「グローバル化への対応」等を目的として、平成27年9月に大改正され、平成29年5月30日に全面施行されました。

 全面施行に伴い、各主務大臣が保有していた個人情報保護法に関する勧告・命令等の権限が個人情報保護委員会に一元化されました。

 

<POINT3:電磁的記録による保存等>

 「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(平成16年法律49号、以下「e―文書法」といいます。)等の規定に基づき、「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年厚生労働省令44号、以下「主務省令」という。)が定められています。

 このe―文書法は、民間事業者等に対して書面の保存等が法令上義務付けられている場合について、原則として当該書面に係る電磁的記録による保存等を行うことを可能にするための共通事項を定めたものであり、また、主務省令は、厚生労働省所管の法令について、電磁的記録による保存等を行う範囲、方法、要件等を定めたものです。今後、法をはじめとする労働基準局所管法令に係る保存等を行う場合は、以下の定めによらなければなりません。

 

(1)電磁的記録による保存ができる場合

 民間事業者等は、法令の規定により書面により保存を行わなければならないとされているもの(主務省令で定めるものに限ります。)については、当該法の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行うことができます(e―文書法3条1項)。

 この電磁的記録の保存については、当該保存を書面により行わなければならないとした保存に関する法令の規定に規定する書面により行われたものとみなして、当該保存に関する法令の規定が適用されます(e―文書法3条2項)。

 労働基準法については、主務省令により以下の文書の保存が電磁的記録により可能とされています(主務省令3条・別表第1)。

①法57条1項の規定による戸籍証明書の備付け

②法57条2項の規定による学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書の備付け

③109条の規定による雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存

 

(2)磁的記録による文書の保存方法

 民間事業者等が、前記⑴に掲げた文書につき電磁的記録の保存を行う場合は、次に掲げる方法のいずれかにより行わなければなりません(主務省令4条1項)。

①作成された電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)をもって調製するファイルにより保存する方法

②書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体をもって調製するファイルにより保存する方法

 このほか、民間事業者等は、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、および書面を作成できるようにしなければならないとされ、また、2以上の事務所等のうち、一の事務所等に当該書面に係る電磁的記録の保存を行うとともに、当該電磁的記録に記録されている事項を他の事務所等に備え付けた電子計算機の映像面に表示し、および書面を作成することができる措置(オンラインで結ばれた場合など)を講じた場合は、当該他の事務所等に当該書面の保存が行われたものとみなされることなどが定められています(主務省令4条4・5項)。

 

<POINT4.罰則>

 使用者がこの条に違反して記録の保存義務を怠ると、30万円以下の罰金に処せられます(法120条1号)

 

 

<参考通達>

 磁気ディスク等による労働者名簿等の保存について

 労働者名簿及び賃金台帳については、その調製について定めた労働基準法第107条及び第108条の解釈に関して、平成7年3月10日付け基収第94号通達によって、一定の条件を満たす場合には、磁気ディスク等によって調製することが認められているところであり、第109条による保存についても、同通達の条件を満たす場合には保存義務を満たすものであること。(平8.6.27基発411、平17.3.31基発0331014)

 

 

<主務省令について>

【電磁的記録による保存の方法】

1.

 電磁的記録による保存の方法については、次に掲げる方法のいずれかにより行わなければならないものとされているものであること。

①作成された電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。以下同じ。)をもって調製するファイルにより保存する方法(主務省令第4条第1項第1号)

②書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスクをもって調整するファイルにより保存する方法(主務省令第4条第1項第2号)

2.

 民間事業者等が、1.の方法により電磁的記録の保存を行う場合は、必要に応じ電磁的記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示及び書面を作成できるようにしなければならないものであり、労働基準局所管法令の規定に基づく書類については、労働基準監督官等の臨検時等、保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていることが必要であること。

 また、労働基準局所管法令の規定に基づく書類の電磁的記録による保存に際しては、従来のとおり、以下の要件を満たす必要があること。なお、これらに加え個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)の規定に留意すべきであることはいうまでもないこと。

①記録された保存義務のある画像情報について、故意又は過失による消去、書換え及び混同ができないこと。また、電子媒体に保存義務のある画像情報を記録した日付、時刻、媒体の製造番号等の固有標識が同一電子媒体上に記録されるとともに、これらを参照することが可能であること。

②同一の機器を用いて保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報の両方を扱う場合には、当該機器に保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報のそれぞれを明確に区別する機能を有していること。

③電磁的記録について、保存義務のある画像情報を正確に記録することが出来ること。

④電磁的記録に記録された保存義務のある画像情報を、法令が定める期間にわたり損なわれることなく保存することができること。

⑤電磁的記録を圧縮した場合等の保管システムについて、記録された画像情報を正確に復元することが出来ること。(平17.3.31基発0331014)

 

【労働者名簿、賃金台帳等の保存】

 労働基準法(昭和22年法律第49号)第107条の「労働者名簿」及び第108条の「賃金台帳」については、法令上書面であることが求められていないため、今般のe-文書法の対象となっていないものであり、これらの取扱いについては、既に平成7年3月10日付け基収第94号通達及び平成8年6月27日付け基発第411号通達によって示しているところであるので、特段の変更はないものであること。また、労働基準法第18条第3項の「貯蓄金の管理に関する規程」、労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成4年法律第90号)第7条第2号の「議事録」、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第24条の2の2第3項第2号の「記録」、第24条の2の4第2項の「議事録」についても、法令上書面であることが求められていないため、e-文書法の対象となっていないものであるが、これらの取扱いについては、上記通達に準じること。(平17.3.31基発0331014)

 

【労働基準法の一部を改正する法律及び労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布及び施行について】

第2 労働者名簿等の記録の保存期間の延長等(新労基法第109条及び第143条第1項並びに新労基則第17条第2項、第24条の2の2第3項第2号、第24条の2の3第3項第2号、第24条の2の4第2項、第24条の7、第34条の2第15項第4号、第56条及び第72条並びに新労働時間等設定改善則第2条及び附則第4条関係)

1 趣旨

 労働者名簿や賃金台帳等の記録については、旧労基法第109条等において、紛争解決や監督上の必要から、その証拠を保存する意味で、3年間の保存義務が設けられていたところ、改正法及び改正省令において、当該趣旨を踏まえ、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて記録の保存期間の延長を行うとともに、労働基準法第109条に規定する記録等の保存期間の起算日の明確化を行ったものであること。

2 記録の保存期間の延長(新労基法第109条並びに新労基則第17条第2項、第24条の2の2第3項第2号、第24条の2の3第3項第2号、第24条の2の4第2項、第24条の7及び第34条の2第15項第4号並びに新労働時間等設定改善則第2条関係)

 労働基準法第109条に規定する記録の保存期間について、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて5年とすること。

 また、労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則において、労働基準法第109条を参考に保存期間を定めている各種記録等についても、保存期間を5年とすること。

3 記録の保存期間の起算日の明確化(新労基則第56条関係)

 改正法により、賃金請求権の消滅時効と記録の保存期間が同一となることを踏まえ、賃金請求権の消滅時効期間が満了するまでは、タイムカード等の必要な記録の保存がなされるよう、新労基法第109条に定める賃金台帳及び賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存期間の起算日について、当該記録に基づく賃金の支払期日が新労基則第56条第1項第2号又は第5号に掲げる起算日より遅い場合には、当該支払期日を起算日とすること。

 また、労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則において、労働基準法第109条を参考に保存期間を定めている各種記録のうち、賃金請求権の行使に関係し得るものについても、同様の取扱いとすること。

4 経過措置(新労基法第143条第1項、新労基則第72条及び新労働時間等設定改善則附則第4条関係)

 上記2で延長することとした各種記録の保存期間については、新労基法の賃金請求権の消滅時効期間に合わせて当分の間3年とすること。(令2.4.1基発0401第27)