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■退職した従業員から「退職の事由」について証明書を求められた際の対応について考える

 先日、当社従業員J氏を解雇した。

 J氏から退職の事由について証明書が欲しいとの申し出があったが、退職の事由についての証明はどのように行えばよいのか。

 労働基準法第22条では、労働者が退職の場合において使用者に証明書を請求できる事項は、使用期間、業務の種類、その事業場における地位、賃金または退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由も含む。)とされています。

 よって、お題の場合については、退職の事由を記載した証明書を交付する必要があります。

 なお、費用については、行政通達を含め、有償・無償の記載は一切書かれていないため、無償でなければならない義務もなく、有償であっても直ちに法違反とはなりません。

<POINT1.退職事由が追加された趣旨>

 労働基準法第22条では、退職時の証明書の証明事項などが規定されています。

 これは、労働移動の増大、就業形態の多様化、労働条件の個別化の進展に伴い、労働契約の締結時と同様に、労働契約の終了時においても労働関係の内容を明確にし、また、退職、解雇に関する紛争を未然に防止するため、退職した労働者から請求があった時には、使用者は労働関係の終了日および解雇により終了した場合はその理由を含め、労働関係の終了の事由を記載した書面を交付するものとすることが必要であることから、退職(解雇を含む。)の事由を退職時に証明すべき事項として平成10年の労働基準法改正により追加されたものです(厚生労働省「退職事由に係る退職証明書」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/130220-1.pdf参照)。

 

<POINT2.解釈例規について>

 追加された退職時の証明について、解釈例規においては、「『退職の事由』とは、自己都合退職、勧奨退職、解雇、定年退職等労働者が身分を失った事由を示すこと。また、解雇の場合には、当該解雇の理由も『退職の事由』に含まれるものであること。解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項に該当する内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならないこと。なお、解雇された労働者が解雇の事実のみについて使用者に証明書を請求した場合使用者は、法第22条第3項より、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務があること。」としています。

 また、この証明は「書面による交付により行う」とされていますが、法定の要件を満たしていれば十分です。

 なお、モデル様式(厚生労働省「退職事由に係るモデル退職証明書https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/pdf/130220-1.pdf)が示されていますので、それを参考とすることができます。

 

<POINT3.解雇の場合の証明について>

 平成10年の改正の趣旨は先程の説明のとおりで、一般に懲戒解雇の場合は、請求する労働者が再就職を望んでいるときはその事由の証明を求めないと考えます。そのような場合であっても、また普通解雇の場合であっても、特に解雇理由を記載する場合には、次のような留意点があります。

  1.  これまでは判例上、「解雇された者から解雇理由を明示するように要求されても使用者は原則として明示する必要はない」(熊本電鉄事件)とされていましたが、今回の法改正の結果、今後は労働者からの請求があれば、解雇の場合も理由の明示が必要となります。
  2.  「退職時の証明」は解雇理由を書くという『法律上の手続き』にすぎないという点です。つまり、労使双方に見解の相違があった場合においても、使用者が自らの見解を証明書に記載し、労働者の請求に対し遅滞なく交付すれば、労働基準法違反にならないというにすぎず、解雇の効力の有無とは無関係であるということです。労働者が解雇理由に不服で、解雇の有無について民事上の争いになれば、それは別途裁判所で解決されることとなります。
  3.  裁判上の留意点としては、解雇したその時点で判明していなかった解雇理由を後から裁判中に追加することはできないということです(山口観光事件)。また、証明書の記載内容が虚偽であった場合、つまり、使用者がいったん労働者に示した事由と異なる場合などには、労働基準法第22条の義務を果たしたこととはなりません。

 なお、平成15年の労働基準法改正により、解雇理由について、労働者が解雇を予告された日から退職の日までの間に証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならないとされました(東京労働局「モデル解雇理由証明書」https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/standard/relation/22.pdf参照)。

 ただし、解雇予告日以後に、労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は当該退職日以後、これを交付する必要はありません

 

<POINT4.結論>

 退職時の証明書は、労働者が次の就職に役立たせる等その用途は労働者に委ねられているものです。

 また、この証明書はあくまでも使用者が交付するものですので、解雇理由を書く際にも、会社の判断に基づき正しいと思う退職事由(解雇事由)を慎重に、かつ、記載事項について争いがでない客観的な内容とすることが必要です。

 なお、雇用保険の離職票の交付は公共職業安定所に提出する書類であるため、これをもって退職時の証明書に代えることはできません。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法22条
  • 平11.1.29基発45

《参考となる判例》

  • 熊本電鉄事件[最判S28.12.8]
  • 山口観光事件[最判H8.9.26]