当社は、賞与の支給要件に出勤率80%以上との規定があり、出勤率の算定について、産前産後休業を欠勤日数に算入してきた。
これに対し、ある女性労働者が、産前産後休業は法律で取得が認められた休暇なのに欠勤扱いとなるのは納得できないと訴えて来た。
当社の規定では産前産後休業は無給扱いとなっているうえ、賞与は、会社の利益確保に貢献した従業員への報賞金として支給額の査定を行っており、この女性労働者の言い分を受け入れるつもりはないが、このような対応でよいのか。
賞与の支給要件である出勤率の算定で、産前産後休業を他の私的な欠勤と同様に扱うことは、労働基準法などが保障した権利を認めないことになり、公序良俗に反することから無効とされ、認められません。
ただし、産前産後休業の取得を理由に賞与の支給金額自体を減額することは、平成15年の最高裁判決で、直ちに公序に反し無効なものということはできないと認められていますので、状況に応じた柔軟な対応が望まれます。
<POINT1.産前産後休業に係わる保護規定>
母性保護の観点から労働基準法65条で産前産後休業の権利が認められていますが、産前産後休業は以下の規定により、手厚く保護されています。
①労働基準法第19条
…産前産後休業期間およびその後30日間は、解雇することはできません。
②労働基準法第39条第10項
…年次有給休暇の取得要件としての出勤率の算定において、産前産後休業は出勤したものとみなすこととされています。
③雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第8条第2項
…女性労働者が妊娠し、または出産したことを退職理由として予定する定めをすることは禁止されています。
④雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第8条第3項
…女性労働者が妊娠し、出産し、または産前産後休業をしたことを理由として解雇することは禁止されています。
<POINT2.保護規定の趣旨>
産前産後休業の取得について、遅刻、早退、欠勤などの労働者の責めに帰すべき理由による不就労と明確に区別して、休業を取得した女性労働者が、解雇その他の労働条件において不利益を被ることのないよう定められたものです。
<POINT3.賞与の性格>
賞与には多様な性格がありますが、労働の対価として支払われる賃金の性格がある場合は、公序性の判断が厳格に求められます。
賃金性を判断するにあたり重要なことは、就業規則などに支給に関する具体的な規定があり、労働者の権利とされているかどうかです。
また、恩恵的・任意的給付であるとしても、その金額が大きく、労働者の休業取得の権利を抑制するような影響が強い場合は、公序良俗に反すると判断されることも考えられます。
<POINT4.出勤率の効力>
出勤率の低い労働者について、ある種の経済的利益が得られないとする制度は、一応の経済的合理性はありますが、定めた出勤率に達しないと賞与が全く支給されないのは、ノーワーク・ノーペイの原則を超えた不利益と考えられます。
<POINT5.お題の場合>
お題の場合は、賞与の出勤率算定に際し、産前産後休業を欠勤日数に算入することは、公序良俗に反すると考えられますので、算入することはできません。
しかしながら、最高裁判決(代々木ゼミナール事件[最判平15.12.4])では、「労働基準法第65条は、〔中略〕産前産後休業中の賃金については何らの定めを置いていないから、産前産後休業が有給であることまでも保障したものではないと解するのが相当である」との理由から、産前産後休業の取得を理由に賞与を減額することは、直ちに公序に反し無効なものということはできないとしています。
この判決に従って、ご質問にある「出勤率80%以上の支給要件」を算定する際に産前産後休業を欠勤日数に算入する取扱いは廃止し、一方、賞与支給額の計算においては、産前産後休業期間を減額控除の対象とする取扱いを検討してはいかがかと考えます。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- 代々木ゼミナール事件[最判H15.12.4]