個人のSNSに、当社の従業員や顧客の情報が掲載されていた。
掲載されていた内容は、当社の従業員でないと知り得ない情報であることから、書込みをしたのは当社の従業員であると思われるが、書込みをした従業員を特定して懲戒解雇することができるか。
業務に関連する、会社の従業員や顧客の個人情報、会社や顧客の秘密情報、会社や顧客を誹謗中傷する情報などを、従業員個人がSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に投稿する行為については、公開する情報の内容によっては被害を受けた個人・会社・顧客に対する「名誉棄損罪」や「侮辱罪」などの犯罪にあたる可能性がありますし、被害者に対する不法行為として損害賠償責任を問われる可能性があります。なかには、会社もその使用者として従業員の不法行為について損害賠償責任を問われるケースがあり得ます。このような行為は、会社の秩序・信用・社会的評価・名誉などに悪影響をおよぼすおそれがあり、また、直接会社に損害をもたらすおそれもありますので、懲戒処分の対象になり得ます。なかでも重大・悪質で背信性が高い事案について懲戒解雇とすることは可能と考えられます。
なお、こうした従業員によるSNSへの投稿行為を未然に防止するには、就業規則等において、会社への影響が生じるようなSNSの利用行為を明確に禁止する規定を設けるともに、従業員にその周知徹底を図る必要があると考えられます。
<POINT1.SNS投稿の法的責任>
はじめに、従業員が個人的にSNSに業務に関連する情報を投稿する場合の法的責任について、情報の内容ごとにみていきましょう。
いずれの場合もSNSに投稿する従業員個人が刑事面または民事面の法的責任が問われる可能性がありますし、なかには会社もその使用者として従業員の不法行為について損害賠償責任が問われるケースがあり得ます。
(1)個人情報
会社の従業員や顧客の個人情報を投稿する行為は、公開する情報の内容によっては被害を受けた個人に対する名誉棄損罪や侮辱罪といった犯罪にあたる可能性がありますし、名誉棄損・侮辱に加えプライバシーの侵害について被害者に対する不法行為として損害賠償責任が問われる可能性があります。
(2)秘密情報
会社や顧客の秘密情報を投稿する行為も、同様に不正競争防止法違反(営業秘密侵害)などの犯罪にあたる可能性がありますし、会社または顧客に対する不法行為として損害賠償責任が問われる可能性があります。
(3)誹謗中傷する情報
会社や顧客を誹謗中傷する情報を投稿する行為も、同様に会社または顧客に対する名誉棄損罪・侮辱罪のほか偽計業務妨害罪、信用毀損罪などの犯罪にあたる可能性がありますし、会社または顧客に対する不法行為として損害賠償責任が問われる可能性があります。
<POINT2.SNS投稿の制限のルール化>
従業員によるこれらの情報のSNSへの投稿行為は、会社の秩序・信用・社会的評価・名誉に悪影響をおよぼすおそれがあり、また、直接会社に損害をもたらすおそれもありますので、懲戒処分の対象になり得ます。
もとより、秘密情報については、労働契約に伴う信義則上の義務として、労働者は使用者の業務上の秘密を保持すべき義務を負っていますので、営業上の秘密(企業秘密)を第三者に漏洩するなど労働者が秘密保持義務違反をした場合、懲戒処分の対象となり得るものです。
こうした従業員によるSNSへの投稿行為を未然に防止するには、就業規則等において、会社や顧客への影響が生じるようなSNSの利用行為を明確に禁止する規定を設けるとともに、従業員にその周知徹底を図る必要があると考えられます。
SNSへの投稿の制限については、「■採用内定者がSNSに投稿することを制限できるか - Epic & company ページ!」を参照してください。
<POINT3.懲戒処分の就業規則>
懲戒(制裁)について定めをするには、必ず就業規則に規定しなければなりません。
懲戒処分としては、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などの種類がありますが、特に制限はありません。どのような場合(懲戒事由)に、どのような処分(懲戒処分)が行われるのかを明らかにして規定します。
SNSに会社の従業員や顧客の個人情報等を投稿する行為がどの程度の懲戒に該当するかは、会社への影響の度合によりますので、ケースバイケースで判断することになりますが、重大・悪質で背信性の高い事案について懲戒解雇とすることは可能と考えられます。
なお、従業員によるSNSへの投稿内容が業務に関連しないものであっても、違法行為や破廉恥な行為など不適切な言動があり、従業員を雇用している会社の信頼が低下するような場合も、懲戒処分の対象になり得ると考えられます。
<POINT4.懲戒・解雇には客観的に合理的な理由が必要>
懲戒について、労働契約法第15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められており、懲戒事由に合理性がない場合、その事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用と判断される場合があります。
したがって、懲戒処分の対象者に対しては、規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があります。
裁判においては、使用者の行った懲戒処分が公正とは認められない場合には、その懲戒処分について懲戒権の濫用として無効であると判断したものもあります。
また、解雇について、労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められており、懲戒解雇の場合も例外ではないことに留意します。
<POINT5.情報漏洩に係る懲戒処分に関する判例>
参考までに、SNS投稿等による情報漏洩に係る懲戒処分に関する判例を紹介します。労働者による情報漏洩が懲戒事由にあたるか否かで判断が分かれています。
■採用内定者がSNSに投稿することを制限できるか - Epic & company ページ!
新聞記者が自己のホームページに、新聞記者として活動する中で知り得た事実や体験を題材として作成した文章を掲載していたところ、
- 上司から問題点の指摘とホームページの閉鎖を求められ、いったんは応じたものの、会社の了解を得ないまま、ホームページの公開を再開し、問題点を指摘された文章を削除したり、修正を加えたりすることなくそのまま再掲したばかりか、その後も、取材の過程や取材源を公表する記述を含んだ新たな文章を公開したこと
- 会社の記事には記者によって創作された部分が日常的にあるのではないかとの不信感を広く読者に与えかねない文章を公開したこと
- 会社のマスコミとしての信用を害する文章を公開したこと
には、それぞれ就業規則が定める懲戒処分事由があり、14日間の出勤停止処分を相当とした例(日本経済新聞社(記者HP)事件[東京高判H14.9.24])
(2)懲戒事由に該当しないとされた例(SNS投稿)
大学教授が行った投稿(ツイート)について、
- 特定の投稿が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである。
- 本件投稿者は本名ではなく、また、これと関連性のあるものでもないから、一般の読者の読み方をもっても教授本人によるものであることを認識することは困難である。
- 一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、各投稿は学校法人や大学に関する事実を摘示するものであるとは認められず、学校法人の社会的評価を低下させたとはいえない。
- 内部情報の漏洩についても、本件各投稿の内容が学校法人において公表することを禁じられていたものであると認めるに足りる証拠はない。
として、就業規則の規定に抵触し、同規則の懲戒事由に該当するとは認められないとされた例(学校法人札幌国際大学事件[札幌地判R5.2.16])
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- 刑法230条、231条、233条
- 民法709条
- 労基法89条
- 労働契約法3条、15条、16条
- 不正競争防止法21条
《参考となる判例》
- 日本経済新聞社(記者HP)事件[東京高判H14.9.24]
- 学校法人札幌国際大学事件[札幌地判R5.2.16]