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■育児休業中に所属部署が廃止された管理職者の配置転換について考える

 育児休業を取得している管理職者が所属していた部署を廃止することになった。

 復職後は配置転換をした上、部下のいない管理職者として業務させることは可能か?

 育児休業中の管理職者の所属部署の廃止については、業務上の必要に基づくものであって、育児休業の申出・取得等を理由とするものでなければ不利益取扱いの問題は生じないと考えられます。

 育児休業取得後の復職の際の配置転換については、経済的・精神的な損失を伴わない、会社の人事異動のルールや慣行に照らして一般的なものであれば不利益取扱いの問題は生じないと考えられます。

 ただし、例外的な部下のいない管理職への配置転換については、落差が大きくキャリア形成を損なうおそれがあるので、賃金の水準が維持され経済的な損失が伴わなくとも、業務の内容面で質が著しく低下し将来のキャリア形成に影響を及ぼすことのないように処遇することが必要と考えられます。

 もとより、こうした配置転換について労働者の承諾に係る合理的な理由が客観的に存在する場合または業務上の必要性等に係る特段の事情が存在する場合には不利益取扱いには該当しないと考えます。

<POINT1.不利益取扱いの禁止>

 育児・介護休業法第10条により、育児休業・出生時育児休業を申出・取得したこと、出生時育児休業の期間中の就業の申出・同意をしなかったこと等を理由として、その労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。

 そして、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立を図られるようにするために事業者が講ずべき措置等に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)では、留意事項として、

  1. 解雇その他不利益な取扱いは、労働者が育児休業等の申出等をしたこととの間に因果関係があること
  2. 解雇その他不利益な取扱いとなる行為には、たとえば、「解雇すること」などのほか、「不利益な配置の変更を行うこと」が該当すること

が示されています。

 

 

<POINT2.不利益取扱いの考え方:原則と例外>

 上記1.の「因果関係がある」について、育児・介護休業法施行通達(平28.8.2職発0802第1・雇児発0802第3)では、次の考え方を示しています。

 育児休業の申出または取得をしたことを契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として育児休業の申出または取得をしたことを理由として不利益取扱いがなされたと解されるものであること。

 ただし、

<ア>

  1. 円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、
  2. その業務上の必要性の内容や程度が、育児・介護休業法第10条の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるときまたは

<イ>

  1. 当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、
  2. 当該育児休業および当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

についてはこの限りでないこと。つまり、上記アの業務上の必要性等に係る特段の事情が存在する場合またはイの労働者の同意に係る合理的な理由が客観的に存在する場合は、不利益な取扱いがなされたとは解されないとしています。

 

<POINT3.不利益な配置の変更の判断>

 さらに、上記指針では、配置の変更が不利益取扱いに該当するが否かについては、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等、諸般の事情について総合的に比較考慮の上、判断すべきものであるとしつつ、たとえば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務または就業の場所の変更を行うことにより、その労働者に相当程度経済的または精神的な不利益を生じさせることは、「不利益な配置の変更を行うこと」に該当する可能性が高いとされています。

 

<POINT4.配置の変更に関する判例の考え方>

 不利益な配置の変更に関する判例においても、要旨、

  1. 原則
     一般に、基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇にあたるというべきところ、女性労働者につき妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業等を理由として、労働者につき育児休業の申出、育児休業等を理由としてこのような不利益な配置の変更を行う事業主の措置は、原則として均等法および育児・介護休業法が禁止する取扱いにあたるものと解されるが、
  2. 例外
    ①その労働者がその措置により受ける有利な影響および不利な影響の内容や程度、その措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯やその労働者の意向等に照らして、その労働者につき自由な意思に基づいてその措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
    または
    ②事業主においてその労働者につきその措置を執ることなく産前産後の休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度および上記の有利または不利な影響の内容や程度に照らして、その措置について均等法第9条第3項または育児・介護休業法第10条の趣旨および目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき

 は、同各規定の禁止する取扱いにあたらないものと解するのが相当である。

として、配置の変更の措置について、上記1.を原則としつつ、2.①の労働者の承諾に係る合理的な理由が客観的に存在する場合または2.②の業務上の必要性等に係る特段の事情が存在する場合には不利益取扱いには該当しないという考え方を示しています(アメックス(降格等)事件[東京高判令5.4.27])

 

<POINT5.アメックス(降格等)事件[東京高判令5.4.27])>。

 この判例では、妊娠前に37人の部下を持つチームリーダー(部長)として勤務していた女性労働者が育児休業等を取得し復職したが、それまでに組織変更により女性労働者のチームは消滅したところ、会社は復職した女性労働者を新設の部門の部下を持たないアカウントマネージャーに配置した点について、

  1. 育児休業等による長期間の業務上のブランクがあったこと、出産による育児の負担という事情を考慮したものであり、妊娠、出産、育児休業等を理由とするものと認められる。
  2. 女性労働者が自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在せず、また、業務上の必要性が高かったとはいい難く女性労働者が受けた不利益の内容および程度も考え合わせると、均等法第9第3項および育児・介護休業法第10条の趣旨および目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在せず、女性労働者に一人の部下も付けずに新規販路の開拓に関する業務を行わせ、その後間もなく専ら電話営業に従事させたという限度において、不利益な取扱いにあたる。

としています。なお、上記組織変更については業務上の必要に基づくものであり、妊娠、出産、育児休業等を理由とするものとは認められないとしています。

 

<POINT6.お題の場合>

 お題の場合、育児休業中の管理職者の所属部署の廃止については、あくまで業務上の必要に基づくものであって、育児休業の申出・取得等を理由とするものでなければ不利益取扱いの問題は生じないと考えられます。

 育児休業取得後の復職の際の配置転換については、所属部署の廃止に伴い避けられない措置として行わなければなりませんが、経済的・精神的な損失を伴わない、会社の人事異動のルールや慣行に照らして一般的なものであれば不利益取扱いの問題は生じないと考えられます。

 ただし、例外的な部下のいない管理職への配置転換については、落差が大きくキャリア形成を損なうおそれがあるので、賃金の水準が維持され経済的な損失が伴わなくとも、業務の内容面で質が著しく低下し将来のキャリア形成に影響を及ぼすことのないように処遇することが必要と考えられます

 もとより、こうした配置転換について、上記不利益取扱いの考え方(原則と例外および配置の変更に関する判例の考え方)で説明したとおり、労働者の承諾に係る合理的な理由が客観的に存在する場合または業務上の必要性等に係る特段の事情が存在する場合には不利益取扱いには該当しないことになります

 なお、育児休業から復帰後の配置転換については「■育児休業から復帰した従業員の配置転換について考える - Epic & company ページ!」もご確認ください。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 育児・介護休業法10条
  • 平21.12.28厚労告509
  • 平28.8.2職発0802第1・雇児発0802第3

《参考となる判例》

  • アメックス(降格等)事件[東京高判令5.4.27]
  • 広島中央保健生活協同組合事件[最判平26.10.23]