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■シフト制労働契約締結時の留意点の確認

 当社は年中無休の飲食業を経営している。

 この度新店舗をオープンすることになり、アルバイトを多数雇用することを計画している。アルバイトはシフトに従って勤務してもらう予定だが、労働契約の締結にあたって注意すべき点はあるか。

 シフト制に関する適切な労務管理を促すことを目的として、「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(以下「留意事項」という。)が示されています。

 シフト制による労働契約を締結する際に明示すべき労働条件、就業規則に規定すべき事項、労働契約に定めることが考えられる事項、労働契約の確認について、解説で留意事項のポイントなどを説明します。

<POINT1.シフト制に関する留意事項>

 現在、パートタイム労働者やアルバイトを中心に、労働日や労働時間を一定期間ごとに調整し、特定するような働き方が取り入れられています。

 典型的なケースでは、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態が取られています。

 このような形態には、その時々の事情に応じて柔軟に労働日・労働時間を設定できるというメリットが労使双方にありますが、一方で使用者の都合により、労働日がほとんど設定されなかったり、労働者の希望を超える労働日数が設定されたりすることにより、労働紛争が発生することもあります。

 このため、シフト制に関する適切な労務管理を促すことを目的として、「留意事項」が示されています。

 

<POINT2.シフト制とは>

 「留意事項」では、労働契約の締結時点では具体的な労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態を「シフト制」、シフト制を内容とする労働契約を「シフト制労働契約」、シフト制労働契約にもとづき就労する労働者を「シフト制労働者」と称しています。

 なお、この「留意事項」では、従来から見られた、いわゆる交替勤務(年や月などの一定期間における労働日や労働時間数が決まっており、その上で、就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態)は除かれています。

 

 

<POINT3.シフト制労働契約の締結時に明示すべき労働条件>

 労働基準法では、使用者に対して労働契約の締結時に「始業および終業の時刻」や「休日」に関する事項などを書面により労働者に明示することを義務付けています。なお、労働者の希望に応じて、電子メールの送信等電子的な方法により明示することも可能です。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2023年3月31日に公表した「「シフト制勤務」で働く非正規労働者の実態等に関する調査結果」によれば、「労働条件が、書面で交付された」と回答したシフト制労働者は約60%となっています。

 シフト制労働契約の場合は、特に問題となりやすい「始業および終業の時刻」や「休日」に関する事項について、次の点に留意する必要があります。

(1)「始業および終業の時刻」に関する事項

 労働契約の締結時点において、すでに始業および終業時刻が確定している日については、その日の始業および終業時刻を明示しなければなりませんので、労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りず、労働日ごとの始業および終業時刻を明記するか、原則的な始業および終業時刻を記載した上で、労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要です。

(2)「休日」に関する事項

 労働契約の締結時に休日が定まっている場合には、これを明示しなければなりません。また、具体的な曜日等が確定していない場合は、休日の設定にかかる基本的な考え方等を明示しなければなりません。

 労働基準法では、毎週少なくとも1回または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないとされていますので、最低でもこうした内容を満たす考え方を示す必要があります。なお、4週間を通じて4日以上の休日とする場合は、4週間の起算日を就業規則等において明らかにしておくことが必要です。

 

<POINT4.就業規則に規定すべき事項>

 就業規則について、同一の事業場において、勤務態様、職種等によって始業および終業の時刻や休日が異なる場合には、勤務態様、職種等の別ごとに始業および終業の時刻等を規定する必要があります。

 シフト制労働者に関して、就業規則上「個別の労働契約による」、「シフトによる」との記載のみにとどめた場合、就業規則の作成義務を果たしたことにはなりませんが、基本となる始業および終業の時刻や休日を定めた上で、「具体的には個別の労働契約で定める」、「具体的にはシフトによる」旨を定めることは差し支えありません。

 なお、シフト制労働者に対して1か月単位の変形労働時間制を導入しようとする場合は、就業規則において、具体的な労働日や各日の始業および終業時刻(月ごとにシフトを作成する必要がある場合には、すべての始業および終業時刻のパターンとその組合せの考え方、シフト表の作成手続および周知方法等)を定めておかなければなりません。

 就業規則で定めていない店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されている事案について、就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したとはいえず、労働基準法32条の4の要件を充足するものではないので、1か月単位の変形労働時間制は無効であるとした判例(日本マクドナルド事件[名古屋高判R5.6.22])があります。

 

<POINT5.労働契約に定めることが考えられる事項>

(1)シフト作成・変更の手続

 シフト制労働者の場合であっても、使用者が一方的にシフトを決めることは望ましくなく、使用者と労働者で話し合ってシフトの決定に関するルールを定めておくことが考えられます。

ア.シフトの作成に関するルール

 具体的な労働日、労働時間などをシフトにより定めることとする場合には、シフト作成に関するルールとして、たとえば、次の事項についてあらかじめ使用者と労働者で話し合って定めておくことが考えられます。

  1. シフト表などの作成にあたり、事前に労働者の意見を聴取すること
  2. 確定したシフト表などを労働者に通知する期限や方法

イ.シフトの変更に関するルール

 確定した労働日、労働時間等の変更は、労働条件の変更にあたりますので、使用者および労働者双方が合意した上で行うようにします。

 シフトの変更に関するルールとして、たとえば、次の事項について、あらかじめ使用者と労働者で話し合って、合意しておくことが考えられます。

  1. シフトの期間開始前に、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等の変更を使用者または労働者が申し出る場合の期限や手続
  2. シフトの期間開始後に、使用者または労働者の都合で、確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等を変更する場合の期限や手続

(2)労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方

 労働日の労働契約の内容に関する理解を深めるためには、シフト制の基本的な考え方を労働契約においてあらかじめ取り決めておくことが望まれます。

 たとえば、労働者の希望に応じて次の事項について使用者と労働者で話し合って合意しておくことが考えられます。

  1. 一定の期間において、労働する可能性がある最大の日数、時間数、時間帯(例:「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」など)
  2. 一定の期間において、目安となる労働日数、労働時間数(例:「1か月〇日程度勤務」、「1週間あたり平均〇時間勤務」など)

 これらに併せるなどして、一定の期間において最低限労働する日数、時間数などについて定めることも考えられます。(例:「1か月〇日以上勤務」、「少なくとも毎週月曜日はシフトに入る」など)

 

<POINT6.労働契約の確認>

 労働契約の内容の理解の促進のため、上記のシフトの作成・変更に関するルールや労働日、労働時間などの設定に関する基本的考え方について使用者と労働者で合意した場合には、労働契約締結時に明示すべき労働条件に加えて、これらの合意内容についても、当事者間でできる限り書面により確認しておくことが望まれます。

 

<POINT7.労働条件の変更に関する判例>

 なお、労働条件の変更に関する判例として、雇用契約が基本契約による上に、具体的な労働条件のうち勤務スケジュールは別途合意の上定めるとの内容の契約であり、労働契約の内容である労働条件は、就業規則中の根拠規定等にもとづかない限り、使用者の一方的な意思表示により変更できるものではないから、その合意の解約は法律上の根拠はないとしたものがあります(ベルリッツ・ジャパン事件[東京地判R2.3.3])。

 また、勤務日数・シフトを大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、シフトの決定権限の濫用にあたり違法であるとされた判例(有限会社シルバーハート事件[東京地判R2.11.25])もあります。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法15条、35条、89条
  • 労基則5条、12条
  • 労契法3条
  • 昭63.3.14基発150・婦発47
  • 「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令4.1.7厚生労働省)
  • ベルリッツ・ジャパン事件[東京地判R2.3.3]
  • 有限会社シルバーハート事件[東京地判R2.11.25]
  • 日本マクドナルド事件[名古屋高判R5.6.22]