当社の社員が、数日無断欠勤をしたため、家族に連絡をしたところ、無断欠勤初日の前日、退社後に酔ってけんかとなり相手に大怪我をさせ、警察に逮捕・拘留されているとのこと。
あと数日は拘留される予定らしく、本人から、無断欠勤の初日から出社できるまでの間を年次有給休暇として取り扱ってほしい旨、要望があった。そこで、次の3点を確認したい。
- 会社として、欠勤をさかのぼって年次有給休暇としなければならないか。
- また、出社できるまでの期間も年次有給休暇として処理しなければならないか。
- これに関連する事項として、「欠勤の場合、自動的に年次有給休暇を充当する」という規定を設けることはできるか。
労働者から事後に欠勤を年次有給休暇に振り替える要望があった場合、使用者には、これに応じる義務はありません。
一方、就業規則の定めに基づく年次有給休暇の請求に対しては、事業の正常な運営を妨げる場合でない限り、請求日以降の期間について年次有給休暇として処理しなければなりません。
なお、年次有給休暇の時季は労働者に選択権があるため、労働者の申請なく、欠勤日に対し年次有給休暇を充当する規定を設けることはできません。
<POINT1.使用者の時季変更権の行使時期>
労働基準法上の年次有給休暇には、労働者に時季指定権があります。
一方、使用者には時季指定された日について事業の正常な運営を妨げる場合に限り、指定された日を変更できる時季変更権があります。
年次有給休暇を請求した労働者にしてみれば、請求した日について使用者が時季変更権を行使するか否かで予定が左右されまるため、使用者の時季変更権の行使は、一定の合理的な期間内に、遅くとも時季指定された日が開始するある程度前までに行われなければ、その効力は認められないと考えられています。
<POINT2.時季指定権の行使と就業規則>
上述のとおり、労働者からの時季指定が少なくとも指定された日よりある程度前でなければ、使用者は時季変更権を適正に行使することができません。
このため、労働者が時季指定を申し出る日を時季指定日より一定期日前とすることができるか否かが、職場における運用上の問題となります。
これについて、最高裁判例(此花電報電話局時季変更権行使上告事件[最判昭57.3.18])では、「就業規則において時季指定権の行使に一定の時期的な制約(事前の請求期限)を設けることも、それが合理的な内容である限り有効」と解されています。
したがって、使用者は、就業規則に基づかない労働者からの時季指定権の行使や、事後の欠勤の年次有給休暇への振替請求に対しては、これに応じる義務はありません。
なお、欠勤等の事情によっては、年次有給休暇への振替を認めることは可能です。
反対に、就業規則に定められたとおりに時季指定された年次有給休暇に対しては、事業の正常な運営を妨げる事由があり、これを回避することができず、使用者が時季変更権を行使する場合を除いて、年次有給休暇として認めなければなりません。
<POINT3.お題について>
お題のケースでは、無断欠勤とのことなので、労働者から要望があっても、さかのぼって年次有給休暇を認める義務はないと考えます。
無断欠勤となった理由も、退社後、酒に酔ったうえでのけんかとのことであり、年次有給休暇の振替を考慮すべきものではないと考えます。
ただし、無断欠勤後の出社できるまでの期間について、就業規則に基づく年次有給休暇の請求があれば、事業の正常な運営を妨げる場合でない限り、請求日以降については年次有給休暇として認めなければなりません。
また、「欠勤の場合、自動的に年次有給休暇を充当する」という規定を設けることができるかどうかについては、年次有給休暇の時季は労働者の意思に基づき請求されるものであるため、労働基準法第39条5項に違反することになるので、認められないと考えます。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- 労基法39条
- 此花電報電話局時季変更権行使上告事件[最判昭57.3.18]