当社では、台風等の自然災害で警報が発令されたときには、従業員に対し安全のため自宅で待機するよう命じている。
その自宅待機時間中は、いつでも会社と連絡がとれ、出勤することができる態勢をとっておくようにと従業員に指示をしているが、この自宅待機時間は労働時間となるのか。
労働基準法における労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であると考えられており、この自宅待機時間が労働基準法上の労働時間にあたるか否かは、個々の事案毎に判断されます。
自宅にいて、いつでも会社と連絡がとれ、出勤できる態勢をとるよう指示されているとしても、会社から連絡が入るまでは自宅で自由に行動できるのであれば、労働時間にはあたらない可能性が高いと考えられ、反対に、待機中に様々な行動制限が課される場合は、労働時間と判断される可能性が高くなる、と考えます。
<POINT1.「労働時間」とは>
労働基準法には明確な「労働時間」の定義がなく、一般的には「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」(三菱重工長崎造船事件[最判H12.3.9])と考えらております。
この労働時間は、実際に労働している時間だけを指すわけではなく、使用者の指揮命令下にあり、いつでも業務ができるように待機している時間、いわゆる手待時間を含むものとされています。
なお、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20基発0120第3)では、「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)」を労働時間として取り扱わなければならないとしています。
つまり、自宅待機の場合は、その待機時間の拘束性の程度により、労働時間であるか否か判断されます。
<POINT2.待機時間と労働時間性>
待機時間が労働時間として扱われるか否かの判断は、待機時間における職務上の拘束性の程度によります。
この拘束性については、
- 場所的な拘束
- 時間的な拘束
- 行動制限
- 労務および業務による指揮命令的な拘束
があるか否かと、その程度、が判断のポイントとなります。
これらの判断要件により、待機時間が労働から解放され、自由に使える時間として保障されていれば、使用者の指揮命令下にないものと解され、労働時間には該当しないものといえます。
<POINT3.お題について>
お題の場合、自宅にいながらも、出勤できる態勢で会社からの連絡を待つ状態ではありますので、場所的および時間的な拘束は受けています。ただし、時間的な拘束については限定的であるといえます。
そもそも自宅待機の理由は、台風等の自然災害時における従業員の安全対策にあります。自宅待機する日の早朝には、台風の進路等に関する情報を把握することも当然に可能であり、出勤の可能性についてはおおよそ予想できるものと考えられます。
また、自然災害による通勤上のリスクを回避するために自宅待機を命じるときは、出勤が可能と判断された場合でも、その時刻によっては公共交通機関の運行状況や通勤時間を勘案すると実際の出勤は無理であると判断されることもありますから、例えば正午など出勤の可否を判断する時刻を事前に決めておくことが一般的には多いため、時間的な拘束も限定的なものとなります。
一方、会社から連絡が入るまでは、食事をしたり、仮眠をとったり、テレビ鑑賞をしたり等、通常の自宅における時間として自由に過ごすことができますから、手待時間にも該当しません。
自宅という場所的な拘束はあっても、実際に業務を行うことはなく、労働に服することはありませんから、労働者に対する拘束は限定的なものであるといえます。
したがって、自宅待機時間が労働から解放され、自由に利用できるようでしたら労働時間にはあたらない可能性が極めて高いと考えられます。
<POINT4.地震等で出勤できない場合の取扱い>
お題のケースに関連して、地震等で交通機関の運休により、従業員が出勤できない場合については、会社からの指示・命令によるものでなければ、労働基準法第26条の休業手当の問題は生じないことになります。
この場合、欠勤扱いとすることも考えられるものの、本人の責任による欠勤ではないので、年次有給休暇の取得を認める方法もありますし、このような場合に備えて、特別休暇を整備しておくことも必要な対応と考えられます。
<POINT5.会社に従業員を待機させた場合の取扱い>
他方、台風等の自然災害に備えて事業所敷地内で待機を命じられている場合は、指揮命令下にあるものとして労働時間に該当すると考えられます。
また、待機中の仮眠時間であっても作業を必要とする場合に対応することが義務付けられているときも労働時間に該当すると考えられます
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- 昭23.4.7基収1196
- 平29.1.20基発0120第3