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■勤務地限定で採用された者の配置転換(転勤)について考える

 当社では、営業部門のAさんを転勤させようと考えているが、Aさんは、両親の世話をするため、実家に近い当社に転職してきたという経緯がある。

 このことは、採用時に社長にも説明していたそうだが、転勤を命ずることは可能か。

 一般に、労働契約において、勤務地・勤務場所が特定されている場合、会社は原則として労働者の同意を得ることなく、その勤務場所等を変更することはできません。

 Aさんとの労働契約で勤務場所等が特定されているのであれば、Aさんの同意を得ることによって転勤を命ずることが可能になります。

 なお、労働者の同意が必要であることは、平成19年に制定された「労働契約法」にも定められています。

 なお、令和6年4月からは、すべての労働契約の締結、有期労働契約の更新の際に、雇入れ直後の就業場所・業務の内容に加え、就業場所・業務の内容の変更の範囲についても明示することが必要になりました

<POINT1.労働契約の内容>

 一般に、労働契約において、勤務地・勤務場所が特定されている場合、会社は原則として労働者の同意を得ることなく、その勤務場所等を変更する配転などを行うことはできません。

 ただし、勤務場所を特定(限定)していることが労働契約の内容としてはっきり示されていればよいのですが、必ずしも明確でない場合もあります。このような場合には、労働契約締結の経緯・過程等について総合的にみて、当事者の合理的意思がどのようなものであったかが判断されることになります。

 その結果、会社の従業員との労働契約上、勤務場所を特定(限定)する合意が認められる場合には、会社は原則として、合意の範囲をこえて勤務場所を変更する配転などを行うことはできないことになります。

 

<POINT2.従業員の同意>

 労働契約の内容の変更について労働者の同意が必要であることは、労働契約法において「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と定められていることからも明らかです。

 そこで、その従業員本人が同意した場合は、勤務場所を変更する配転を命ずることが可能となりますから、Aさんとの労働契約で勤務場所が特定されていた、あるいはそのように考えられるものであった場合でも、Aさんの同意を得ることによって転勤を命ずることが可能になります。

 ただし、限定された勤務場所を同意により変更が可能といっても無制限なものではないでしょう。勤務地限定での労働契約という趣旨からすると、一時的な短期間のスポット的なものであればともかく、賃金等の労働条件についても他の従業員に比して限定されたまま、長期間にわたって勤務場所を変更するということはいかがかと思われます。勤務地限定労働契約の趣旨を没却するこのような場合は、改めてその従業員と合意することにより通常の身分の従業員へ変更することが適当ではないかと考えられます。

 なお、就業規則の一方的な改正・変更に合理的理由がある場合(労働契約法10条参照)を別にして、これら個別的な合意は労働者の自由意思による任意性が担保されている必要であることは、職種限定等の限定労働契約の場合についても同様です。

 

<POINT3.採用時の説明>

 会社が従業員を雇い入れる際には、労働基準法第15条の規定により、一定の労働条件について明示する必要があります。

 雇入れ直後の「就業の場所」も明示する必要があるのですが、就業の場所が変わる可能性がある場合には、将来の就業の場所(範囲)を明示しておく必要があります。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法15条1項
  • 労基則5条1項
  • 労働契約法8条、10条

 

《参考となる判例》

  • 西村書店事件[新潟地決昭63.1.11]