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■短時間正社員制度を導入する際の課題

 当社では、現在、短時間正社員制度の導入を検討しているところですが、実際に制度を導入する際には、業務運営や人事管理の面で色々な課題があると聞きました。具体的にはどのような課題が出てくるのか、また、それらを解決するにはどうすればよいかを説明してください。

 短時間正社員制度を導入する際には、仕事の編成や配分、業務の円滑な引継ぎや分担方法、上司や同僚の理解、賃金制度や評価基準、社内規定整備、その他様々な課題が出てくるかもしれませんが、労使で十分話し合って制度の導入を進めることが望ましいことです。

<POINT1.具体的な課題と解決策>

 以下に、具体的な課題と解決策を例示しますので、これを参考にして社内の実情にあった解決策を検討してください。

 

<POINT2.仕事の編成・配分について>

【課題】

  • 短時間勤務の期間の長短や短縮時間数・短縮日数、職場の違いに応じて方策を検討しなければなりません。
  • 補完要員は、仕事を代替できる人とすべきです。

【解決策】

  • 業務の補完について、管理・監督者がカバーする他、分担方式や、順送り方式などが考えられます。
  • スキルの面から、補完要員として、経験のあるOB・OGを確保します。
  • フルタイム正社員の業務を複数の短時間正社員で分担することとなる場合、人員計画全体を見直すことが必要です。

 

<POINT3.仕事の円滑な進め方について>

【課題】

  • 管理者は、制度利用者が抱えている制約要因に配慮すべきです。
  • 引継ぎや周囲との意思疎通がうまくいくように工夫が必要です。

【解決策】

  • 管理者は、制度利用者が出張可能か、残業や休日出勤が発生した場合に対応可能かなどを、確認しておきます。
  • 資料の所在を明確化しておきます。
  • IT化を図り、誰でも情報を共有できるようにします。

 

<POINT4.制度利用者や上司、同僚の理解・マネジメントスキルの向上について>

【課題】

  • 全従業員に対して、会社にとっての意義や制度内容、生産性向上などのメリットを伝達し、理解を図ることが望ましいです。
  • 制度利用者の周囲の責任や体制を明確にしておくべきです。

【解決策】

  • ガイドブック作成、説明会、勉強会などで制度の周知を行います。
  • 管理職のマネジメントスキルを高めるためにマニュアルを作成し、説明会、勉強会を行います。
  • 制度利用中に一時的に負荷がかかる周囲の者については、評価の面で配慮するなどフォローアップを行います。

 

<POINT5.賃金の設定方法について>

【課題】

  • 制度利用者だけでなく、制度利用者以外の労働者の理解も得られるものとします。
  • 生活関連手当については、あらかじめルール化しておくことが重要です。

【解決策】

  • 基本給について…
  1. 時間比例で支給します。
  2. 職責、役割、成果に応じて支給します。
  • 賞与について…
  1. 基本給を算定基礎としている部分は基本給に応じて算定します。
  2. 業績に応じて支給する部分は、勤務時間の長短にかかわらず、業績に応じて判断します。
  • 退職金の算定の仕方について、基本給を算定基礎として決めている場合は、基本給に応じて支給します。

 

<POINT6.評価の基準について>

【課題】

  • ・勤務時間の長短による経験の違いをどのように評価するか。
  • ・短時間正社員ということだけで、フルタイム正社員に比べて不利益を被るような評価制度になっていないか。

【解決策】

  • 短時間正社員ということだけで評価を変えることがないよう、評価制度の整備、評価者への教育を行います。
  • 勤続年数を昇給、昇格の判断材料にしている場合、
  1. フルタイム正社員と同じく通算させます。
  2. 時間比例で減じた年数を算定します。

 

<POINT7.教育訓練について>

【課題】

  • 教育訓練の機会を平等に与えられるよう工夫すべきです。
  • 所定労働時間外にoff-JTを行う場合、短時間正社員はフルタイム正社員と違って時間外の対応が難しいことを考慮します。

【解決策】

  • 宿泊研修は、通いで受けられる形にするなど選択肢を揃えます。
  • OJTは、短時間勤務の場合、その機会が少なくなるので、それを埋め合わせる機会を設けます。

 

<POINT8.フルタイム正社員との転換について>

【課題】

  • フルタイム正社員への転換、フルタイム正社員からの転換の可否についてあらかじめルール化しておく必要があります。

【解決策】

  • 転換に関するルールを定め、制度利用者やその周囲に周知しておきます。

 

<POINT9.福利厚生について>

【課題】

  • フルタイム正社員と原則同じ取扱いにできるもの、異なる取扱いにしたほうがよいものに整理します。
  • 制度利用者の周囲の理解が得られるものとします。
  • 納得性を高めるために、勤務時間比例で支給することも考えられます。

【解決策】

  • 社員食堂や保養施設の利用などは、フルタイム正社員と同様の取扱いとします。
  • カフェテリアプランを採用している場合は、ポイント付与にあたって、
  1. 勤務時間比例とします。
  2. フルタイム正社員と同様の取扱いとします。

 

<POINT10.社内規定の整備について>

【課題】

  • 制度の内容、試行や本格導入の段階などに応じて社内規定を整備します。
  • 制度を導入するにあたって、随時労働組合または労働者の代表と十分協議します。
  • 制度を本格導入する際には、企業内の正規の勤務形態として位置付けることが必要です。

【解決策(社内規定の項目例)】

  • 制度の目的
  • 制度の内容
  • 対象となる業務・職場
  • 短縮時間や短縮日数
  • 対象事由や期間
  • 制度適用、制度利用期間延長、フルタイム正社員への復帰の手続
  • 業務遂行に関する留意点
  • 仕事の割り当て
  • 業務の引継ぎや意思疎通の方法

 

<POINT11.短時間正社員制度の利用状況>

 「令和3年度雇用均等基本調査」によりますと、短時間正社員制度の規定がある事業所において、令和2年10月1日から令和3年9月30日までの間に、短時間正社員制度の利用者がいた事業所の割合は41.0%でした。短時間正社員制度の利用者がいた事業所のうち、男女ともに利用者がいた事業所の割合は4.1%、女性のみ利用者がいた事業所の割合は31.7%、男性のみ利用者がいた事業所の割合は5.2%でした。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 「短時間正社員制度導入支援マニュアル」(厚生労働省)