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■短時間正社員制度とは

 正社員でありながら、フルタイム正社員よりも所定労働時間を短く設定した「短時間正社員制度」を導入する企業が増えていると聞いたのだが、どのような制度なのか。

 「短時間正社員制度」とは、フルタイム正社員より一週間の所定労働時間の短い労働者を正規の雇用形態として位置づける制度です。

 就業意識の多様化が見られる中、フルタイム勤務(長時間労働)一辺倒の働き方ではなく、自らのライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を実現させるとともに、これまで育児や介護をはじめ様々な制約によって就業の継続ができなかった人や就業の機会を得られなかった人たちの就業の継続を可能とし、就業の機会を与えることができる働き方です。

<POINT1.短時間正社員とは>

 「短時間正社員」とは、フルタイム正社員より一週間の所定労働時間が短い正社員をいい、フルタイム正社員が短時間・短日勤務を一定期間行う場合や、正社員の所定労働時間を恒常的に短くする場合があります。

 フルタイム正社員より所定労働時間が短いことから、労働者が育児・介護、自己啓発などの必要性に応じて、正社員のまま仕事を継続する、または正社員として雇用機会を得ることができるため、多様就業型ワークシェアリングの代表的制度として、その普及や定着が期待されています。

<POINT2.短時間正社員制度を導入するメリット>

 育児・介護などの家庭の事情により優秀な従業員が辞めてしまう、人材が確保できず人手不足が解消されないなどの問題が起こっている場合、「短時間正社員」を導入することで、次のようなメリットが得られると考えられています。

(1)フルタイム正社員が短時間・短日勤務を一定期間行う場合のメリット

①従業員が育児・介護、自己啓発、社会活動などのために時間を割くことができ、有能な人材の職場への定着や人事確保を容易にし、企業の競争力を高めることができる。

②人事管理、労働時間管理、賃金管理、業務の進め方などを見直すことにより、企業運営の効率性を高めることができる。

(2)正社員の所定労働時間を恒常的に短くする場合のメリット

①仕事と家庭生活のバランス、健康面や体力面の考慮、自己啓発や社会活動などに応じた働き方を希望する有能で多様な人材の定着や人材確保を容易にし、企業の競争力を高めることができる。

②人事管理、労働時間管理、賃金管理、業務の進め方を見直すことにより、企業運営の効率性を高めることができる。

 

<POINT3.現場の管理職・従業員のニーズの把握>

 制度導入のメリットを確認したら、実際に現場の管理職・従業員の声を聞くための調査を実施し、各層のニーズを把握します。

 基本的な考え方・留意点は次のとおり。

①調査項目の設計時における、制度導入の必要性、労働者側のメリットも周知できるような工夫

②各職層のニーズの偏りない把握

③調査後に分類して集計できるよう、調査項目に職場・業務・職層を回答してもらえるための項目の設定

 

 

<管理職への調査項目の例>

1.あなたの職場の現状についてお答えください。

ア.家庭の事情などにより、優秀な従業員が辞めてしまい、定着しない。

イ.労働時間が長いために従業員のモラールが低下し、仕事の効率が良くないような気がする。

ウ.次世代を担う若い労働者を確保しておきたい。

エ.豊富な経験のある高齢者の熟練した技術を、若い労働者に継承したい。

 

2.1.を踏まえた上で、あなたの職場で以下のような働き方の導入が可能だと思いますか。

ア.従業員の残業を減らし、その分新たに短時間正社員を雇用する。

イ.職場の全従業員または一部の従業員に対して、1日の労働時間がフルタイム正社員より短い働き方(短時間勤務)を導入するとともに、新たに短時間正社員を雇用する。

ウ.職場の従業員または一部の従業員に対して、1週間のうち働く日数がフルタイム正社員より少ない働き方(短日勤務)を導入するとともに、新たに短時間正社員を雇用する。

エ.上記の働き方の中で、自分の職場で導入できるものはない。

 

3.2.のア~ウの働き方を導入した場合、どのような課題が考えられますか。

ア.顧客や取引先など会社外部への対応において支障が生じるのではないか。

イ.仕事の配分が難しい。

ウ.仕事量の変動への対応が難しい。

エ.人事労務管理が複雑になり、賃金、評価、教育訓練など、どのように管理してよいかわからない。 など

 

<従業員への調査項目の例>

1.あなたは働く上で、以下のようなことを感じますか。

ア.子育てや親の介護など、家庭生活のための時間が十分に確保できていない。

イ.長時間労働が続き、体調が優れない。

ウ.勉強や習い事など自己啓発の時間を確保したい。

エ.ボランティア活動をする時間を確保したい。

2.1.を踏まえた上で、あなたは以下のような働き方をすることを希望しますか。

ア.残業がない働き方。

イ.1日の労働時間がフルタイム正社員より短い働き方。

ウ.1週間のうち働く日数がフルタイム正社員より短い働き方。

エ.上記ア~ウのような働き方は希望しない。

3.2.のイまたはウを選んだ場合、そのような働き方を希望する期間はどのくらいですか。

ア.短時間勤務をしたい理由が生じている期間のみ( 年程度)

イ.」期間を定めずそのような働き方をしたい。

4.2.のア~ウの働き方になった場合、どのような点が気になりますか。

ア. 賃金や評価について、どのような影響があるのか。

イ.希望すればフルタイム勤務への転換(復帰)ができるかどうか。

ウ.周囲が自分の働き方に理解を示してくれるかどうか。

 

<POINT4.制度導入の対象についての整理>

 調査の結果より、従業員からみた働き方に対する希望や管理職からみた職場の問題点といった両者のニーズを踏まえて、制度導入の対象について整理します。対象を整理する上での基本的な考え方・留意点は次のとおりです。

①制度導入にあたって、全社的な導入が望ましいとしながらも、初めは対象業務を限定し、徐々に対象を広げていくことも有効な策であること。

②現在の職場の中で特に対応する必要がある業務、職層を整理すること。

③モデル的に比較的導入が容易な業務、職層から試行を検討すること。

④一見導入が困難と考えられる業務、職層について導入の道筋を検討すること。また、職場の事情に応じた業務の見直しを検討すること。

 

<POINT5.制度導入に向けた社内体制>

 社内体制を整備する上での基本的な考え方・留意点は次のとおりです。

①制度の円滑な導入を図るために、労使それぞれの立場からの意見が反映できるような社内検討の場を設けること。

②同業他社の事例について調べたり、必要に応じて外部専門家の活用を取り入れること。

 

 

<POINT6.短時間正社員制度導入支援ナビ>

 厚生労働省では、企業における短時間正社員制度の導入支援を行うため、その制度に関する情報提供を行う支援サイト「短時間正社員制度導入支援ナビ」を開設しています。同サイトにアクセスすると、制度の概要や、導入企業の取組事例、また、制度の導入手順や留意点等を閲覧することができますので、制度導入の参考として活用してください。

 

 

<POINT7.短時間正社員制度の導入状況>

 令和3年度の厚生労働省「雇用均等基本調査」によりますと、短時間正社員制度がある事業所の割合は9.7%となっています。

 産業別にみると、複合サービス事業が43.9%、金融業、保険業が18.8%、生活関連サービス業、娯楽業が13.8%と高くなっています。

 

<POINT8.勤務時間限定正社員>

 なお、厚生労働省の「「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」(平成26年7月)では、育児、介護等の他、キャリア・アップに必要な能力を習得するために勤務時間を短縮することが必要な者が活用できるケースとして勤務時間限定正社員が考えられています。

 また、平成25年4月1日から施行された改正労働契約法により、有期契約労働者の「無期転換」への対応が必要となりましたが、無期転換制度の導入方法として、勤務時間限定社員を含む多様な正社員への転換制度も考えられます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 「短時間正社員制度導入支援マニュアル」(厚生労働省)