· 

■年俸制の時間外労働の有無について

 当社では、昨年から課長以上の管理職には年俸制を導入しているが、今年は一般職にもこの制度を取り入れることになった。

 ところで、管理職の年俸額は仕事の成果で決定する方法をとっているが、一般職にもこの方法を踏襲する方向で、仕事の成果により年俸額が決まるような賃金制度の導入を検討している。

 この際、時間外労働という考えも排除し、仕事の成果で決定した年俸額の中にその割増賃金分を含めて支払う賃金体系を考えているが、法的に問題があるか。

 労働基準法第37条では、事業主に1週については40時間をこえ、1日については8時間をこえる労働については、労働者に対して時間外割増賃金の支払を義務付けています。

 これは、管理監督者のように、そもそも時間管理や休日管理を必要としない者を除く、ほぼ全員の労働者に当てはめられます。たとえ年俸制の導入を実施した労働者といえども、労働時間の把握をし、法定労働時間を上回る労働時間については、割増賃金の支払義務が発生します。まして、時間外労働という考えを排除することはできません。

<POINT1.時間外労働を命令できるとき>

 法定労働時間をこえて労働させることができるのは、労働基準法第33条の災害などによる臨時の必要があるときか、労働基準法第36条に規定する労使協定を締結し、所轄の行政官庁に届け出がある場合に限ります。

 

 

<POINT2.年俸制などの場合の時間外労働>

 年俸制などで、賃金の中に時間外労働に対する割増賃金分を含めているという場合には、通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別できることが必要です。

 労働基準法第37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に事業主に支払わせることによって、過重労働などに従事する労働者への補償をするものですから、事業主は労働者について時間管理を免れることはできません。

 時間外割増賃金を通常の賃金額に含めて支給する場合においても、割増賃金部分が具体的に計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は無効といわざるを得ません。

 年俸制の賃金の中に時間外労働に対する割増賃金分が明確に算入されている場合であっても、各月に支払われる割増賃金に相当する額を各月の時間外労働の時間数に基づいて計算された割増賃金額に満たない場合には、その差額を支払わなければならないことになります。

 

 

<POINT3.年俸制における賞与の取り扱い>

 時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎となる賃金額は、原則として月を単位として通常支払われる賃金ということになりますが、通勤手当、家族手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当および賞与など臨時に支払われる賃金については、この計算基礎に算入しなくてもよいことになっています。

 ここでいう賞与とは支給額があらかじめ確定されていないものであり、あくまでも臨時に支払われるものをいいますから、年俸契約の際に賞与額が確定しているような場合や、年俸契約額から単に逆算して賞与額を算出しているような場合には、賞与額は確定しているものと思われます。このような場合には当該賞与額について時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎となる賃金額に含まれますから、注意が必要です。

 

 

<POINT4.参考判例>

 なお、基本給を月額41万円とした上で月間総労働時間が180時間を超える場合に、1時間あたり一定額を別途支払う等の定めがある雇用契約において、各月の180時間以内の労働時間中の時間外労働についても、基本給とは別に割増賃金を支払わなければならないとした最高裁判例があります(テックジャパン事件[最判H24.3.8])。

 また、時間外規程にもとづき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたものの、時間外労働等にあたる部分は明らかにされておらず通常の労働時間にあたる部分と割増賃金にあたる部分とは判別することはできないので、年俸の支払により、時間外労働・深夜労働に対する割増賃金が支払われたとはいえないとした判例もあります(テックジャパン事件[最判H29.7.7])。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法33条、36条、37条
  • 平12.3.8基収78
  • テックジャパン事件[最判H24.3.8・最判H29.7.7]