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■三六協定の締結の当事者とは

 当社では、業務の繁忙な時期を迎え、従業員と時間外労働に関する協定(三六協定)を結びたいと考えている。

 ところで、当社には組合がないので、三六協定を結ぶにあたり、過半数代表労働者を選出しなければならないが、この過半数代表労働者は、どうやって選出すればよいのか。

 「労働者の過半数を代表する者」は、

  1. 監督または管理の地位にある者でないこと
  2. 労使協定の締結等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること

を満たした者でなければなりません。

<POINT1.三六協定の締結当事者>

 三六協定の労働者側の締結当事者となり得るのは、

  1. その事業場の労働者の過半数を組合員として組織している労働組合があるときはその労働組合
  2. そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者

です。

 「事業場」とは、適用事業として決定された単位事業場のことをいいます。1つの会社に複数の工場があるような場合は、通常はその各工場がそれぞれ1つの事業場にあたりますから、労働者の過半数が加入している労働組合があるか否かは、その工場ごとに判断する必要があります。

 「労働者」は、その事業場で働いている労働者の全数のことです。管理監督者であっても、年少者であっても、臨時工やパートタイマーであっても、また、様々な職種の労働者が働いていても事業場の労働者であることに変わりはありませんから、全部算入されます。なお、労働者派遣事業から派遣される派遣労働者は、労働契約関係がありませんから除かれますが、派遣元の事業場の労働者に含まれます。

 「労働組合」とは、労働者が労働条件の維持改善などを図るために組織した団体またはその連合団体をいうと定義されています。

 このように、労働組合は労働者の自由な組織ですから、事業場ごとに1つずつできるとは限りません。

 第1組合と第2組合というように複数の組合ができることもあれば、会社を通じて1つ労働組合があり、事業場単位には単位労働組合がない場合、あるいは事業場ごとに組織された労働組合が会社単位で連合団体を作っている場合などがあります。また、地域の労働者が企業の枠を越えて労働組合を組織する例もあります。

 三六協定の当事者となるのは、事業場の労働者の過半数が加入している労働組合です。つまり、その事業場の過半数の労働者が加入しているという事実があれば、その労働組合がどのような組織であるかは問題ではありません。その事業場の労働者が作った労働組合はもちろんのこと、会社単位の組合でその事業場には支部組織のないもの、企業外の労働組合でもよいのです。

 事業場内に支部分会組織がないことを理由に当該事業場には労働組合がないものとして取り扱うことは許されません。

 

 

<POINT2.1つの事業場に複数の労働組合がある場合>

 たとえば、会社にはABCの3つの事業場があり、甲乙2つ労働組合があって、A事業場では甲組合が過半数を占め、B事業場では乙組合が過半数を占め、C事業場では甲乙両組合とも過半数に達していない場合における三六協定の相手方は、A事業場については甲組合、B事業場については乙組合、C事業場については次に説明する労働者の過半数代表者ということになります。

 1つの事業場に2つの労働組合がある場合、一方の組合が事業場の労働者の過半数を占めていれば、この組合が協定の当事者であって、他方の組合と協定する必要はありません。三六協定の効果は、当然に少数組合の組合員である従業員にもおよぶことになります。なお、どちらの労働組合も労働者の過半数を占めていない場合に、両方の労働組合の組合員数を合わせれば過半数になるときに、両組合の代表者が連名で1つの協定を締結したり、あるいは1つの組合員数と非組合員数を合わせれば過半数になるときに、両方の代表者が連名で協定を締結した場合には、後で述べる「その事業場の労働者過半数を代表する者」との協定として有効と解されています。

 

 

<POINT3.労働者の過半数を代表する者>

 以上のような事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、つまり労働組合が全くないか、あっても事業場の過半数の労働者が加入していない場合には、三六協定を結ぶのは、その事業場の「労働者の過半数を代表する者」であると定められています。

 この労働者の過半数代表者については、投票や挙手などの適性な手続により選出することが必要となります。

 三六協定を結ぶ使用者側の代表者は、会社内部の権限分配の問題となります。会社に複数の事業場があるような場合には、各事業場の所長などにその権限を与えておく場合もありますし、社長自ら各事業場の三六協定を締結する場合もあります。

 

 

<POINT4.過半数を代表する者の決め方>

 「労働者の過半数を代表する者」は、労働基準法施行規則第6条の2により次のいずれにも該当した者でなければならないと規定されています。

  1. 労働基準法第41条の監督または管理の地位にある者でないこと。
  2. 三六協定の締結当事者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であり、使用者の意向により選出された者ではないこと。

以下具体的に説明していきます。

 まず、労働者代表としての適格性をその者の事業場における職務上の地位の面からみますと、事業場全体の労働時間などの労働条件について計画したり管理する立場にある者(労務部長とか労務課長とか)は労働者代表としての適格性を有しません。このような者は、たとえ使用者側の当事者として協定に名を連ねていなくても、実質的にみれば三六協定の締結に関連する事項について使用者側の立場を代表している者であるからです。したがって、このような協定は、労使間の協定として適正な基盤をもたないものといえます。

 次に、過半数代表者の選出方法としては、選挙等があるわけですが、具体的には、次の2つの要件を満たすものが適法だといえます。

(1)労働者代表になろうとする者(候補者)が労働者の過半数を代表して三六協定を締結することについて、賛成するかしないかを判断する機会がその事業場のすべての労働者に与えられていることが必要です。したがって、たとえば、親睦会の代表としてはその事業場の過半数労働者の支持を得ていても、それだけでは三六協定の締結のための代表として選出されているわけではありませんので、三六協定の締結の資格はないということになります。

(2)その事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる手続がとられていることが必要です。この場合、必ずしも投票による方法だけでなく、挙手とかなどでもよいわけです。また、たとえば、いくつかの労働組合の話合いとか、各職場の信任手続を事業場全体で積み上げる方式などの間接的な手続でも、選出された者が当該事業場の過半数労働者の支持を得ていると認められればよいわけです。

 以上のような観点から、適当と認められる選出方法をいくつか例示してみますと、次のとおりです。

  1. 投票を行い、過半数の労働者の支持を得た者を選出する方法
  2. 朝礼、集会などにおいて挙手を行い、過半数の労働者の支持を得た者を選出する方法
  3. 候補者を決めておいて投票とか挙手とかによって信任を求め、過半数の支持があった場合に選出する方法
  4. その事業場の2つの労働組合が話し合って、たとえばどちらかの労働組合の代表者を選出する方法。この場合、2つの労働組合の組合員の合計は、その事業場の労働者の過半数を占めていなければならないことはいうまでもありません。
  5. 各職場ごとに職場の代表者を選出し、これらの者の過半数の賛成を得て選出する方法

 これに対し、次のような方法は適当とはいえませんので注意が必要です。

  1. 労働者を代表する者を、使用者が一方的に指名している場合
  2.  親睦会の代表者が、自動的に労働者代表となっている場合
  3. 一定の役職者が自動的に労働者代表となることとされている場合
  4. 一定の範囲の役職者が互選により労働者代表を選出することとしている場合

 なお、以上述べたようなことから判断して、労働者代表として適格性を有しない者が締結した協定は、適法な三六協定とはいえませんので、これにもとづいて行わせた時間外労働または休日労働は、たとえ届出がなされていたとしても、労働基準法第32条または第35条違反となることになります。

 労働者代表としての適格性を否定した判例として、従業員の親睦団体の代表者が自動的に労働者の過半数代表となって締結された三六協定を無効とし、それを前提とする残業命令も無効とした最高裁判例(トーコロ事件[最判平13.6.22])があります。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「過半数労働組合および過半数代表者に関する調査」(2018年12月)によれば、過半数代表者を選出したことがある事業所における過半数代表者の選出方法は「投票や挙手」が30.9%、「信任」が22.0%、「話し合い」が17.9%となっています。

 

 

<POINT5.過半数代表者と不利益取扱い>

 以上説明した過半数代表者であることもしくは過半数代表者になろうとしたことまたは過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として、解雇、賃金の減額、降格等労働条件について不利益な取扱いをしてはならないこととされています。

 正当な行為には、労働基準法にもとづく労使協定の締結の拒否、1年単位の変形労働時間制の労働日ごとの労働時間についての不同意なども含みます。

 

 

<POINT6.過半数代表者に対する必要な配慮>

 また、使用者は、過半数代表者が労使協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならないこととされています。

 この「必要な配慮」には、たとえば、過半数代表者が労働者の意見集約等を行うにあたって必要となる事務機器(イントラネットや社内メールを含みます。)や事務スペースの提供を行うことが含まれます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法36条
  • 労基則6条の2
  • 昭23.3.17基発461
  • 昭23.4.5基発535
  • 昭24.1.26基収267
  • 昭24.2.9基収4234
  • 昭36.1.6基収6619
  • 昭36.9.7基収1392
  • 昭46.1.18基収6206
  • 昭61.6.6基発333
  • 昭63.1.1基発1・婦発1
  • 「改正労働基準法に関するQ&A」(平31.4厚生労働省)
  • トーコロ事件[最判平13.6.22]