事業拡大にともない、新しく従業員を採用した。いままでの従業員は会社設立時からの、いわば仲間内だったので、会社に対しての誓約書など必要ないと思っていたが、やはり新しい従業員には念のため提出させた方がよいと思う。
しかし、誓約書には、どのようなことを記載させればよいのか。
誓約書には、特に定められた形式や記載事項はないので、会社と従業員のあいだで自由に作成すればよいです。
ただし、法律で禁じられた事項、会社の就業規則や公序良俗に反する事項を誓約させることはできません。
一般的には、
- 就業規則等の諸規程を遵守すること
- 業務遂行上の指示、命令に従うこと
- 会社の信用を傷つけないこと
- 職務上知り得た秘密を保持すること
- 会社に損害を与えないこと
- 誠実に勤務すること
等を記載したものが多いようです。
これらを参考に、自社にあった誓約事項を書き出し、作成いただければ良いと考えます。
<POINT1.誓約書と労働契約>
労働契約は特別な書式行為が必要とされたものではなく、当事者の合意により口頭でも契約が成立するものです。もちろん、契約内容を文書にして取り交わすこともできますが、一般的にはあまり実施されていません。よく行われるのは、会社側からの採用辞令や雇入通知書の交付であり、職場規律や労働条件を定めた就業規則の交付です。これらはいってみれば会社側からの一方的な労働契約内容の表明となっていますので、これに対して、従業員の側から労働契約の内容を遵守することを表明するのが誓約書といえましょう。
<POINT2.法律等で禁じられた事項>
労働契約の内容あるいは労働契約に付随した事項で、法律で禁じられたものがあります。こうした事項を誓約させることはできませんし、したとしても無効となります。例えば、労働基準法第16条の違約金の定めの禁止や、同法第18条の強制貯金の禁止等、あるいは労働組合法に基づく労働組合活動の禁止等が代表的なものでしょう。
また、信教の自由や政治活動の禁止等基本的人権に反するような事項を誓約させることもできません。もっとも、就業時間中の職場内での布教や政治活動の禁止まで制限されるものではありません。
<POINT3.誓約事項と懲戒>
誓約書の記載事項は一般的に従業員が遵守すべき事項となっています。そのため、その遵守を怠った場合、会社側からなんらかのペナルティーを課せられる可能性があります。その場合、次の2つのことに注意しなければなりません。
まずは、誓約に反するといっても、誓約事項自体が会社の信用を傷つけないとか、誠実に勤務するとか抽象的なものが多く、何をもって誓約に反するかの判断が困難であるためその適用を慎重にしなければならないことです。特に、それによって発生した損害に対して従業員に損害賠償を求める場合には、実際に発生した損害額以上を請求することはできませんので損害額の根拠を明確にしなければなりません。
次に、従業員にペナルティを課すには、その原因となる事項を事前に明らかにしておくべきであることです。懲戒については、その原因となる事項およびそれに対する懲戒の種類、程度および手続を一般的には就業規則で定めておき、これに従って処分をしなければなりません。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
≪参考となる法令・通達など≫
- □憲法14条、20条、21条
- □労基法16条、18条
- □労組法7条