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■自主的に行われる残業は時間外労働になるのか

 当社は、企業用の経理ソフトウェアの開発・販売を主な事業としている。

 原則として、当社では、時間外労働は、管理職が仕事の進捗状況をチェックしたうえで、必要であると認めた場合にのみ命じているが、開発部門の従業員の中に、命令のないときでも自主的に残業を行う者が数名おり、対応に苦慮している。

 従業員が主張するには、ソフトウェア開発はいつ突発的なトラブルが生じるかもしれず、そのような事態が発生しても納期に遅れないようにするため自主的に残業をして、早めに仕事を進めておきたいとのことだが、このような理由で行われる自主的な残業も時間外労働として取り扱わなければならないのか。

 使用者が残業を命じていない場合であっても、使用者が黙認している場合は、黙示の指示による時間外労働として取り扱われます。

<POINT1.時間外労働とは>

 労働時間とは、一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいいます。

 したがって、時間外労働とは、法定時間をこえて使用者の指揮監督のもとで労働することをいいます。

 

<POINT2.黙認は黙示の残業指示>

 使用者は明確に労働者に時間外労働を命じていないものの、労働者が労務の提供をしており、使用者がこれを知りながら黙認していた場合は、労働者に対して黙示の指示をしたものとされます。

 すなわち、明示の指示がなくとも、時間外労働として割増賃金の支払が必要になります。

 

<POINT3.黙示の指示>

 職場の雰囲気で定時に帰ることができずに法定労働時間をこえて労働している場合や、特段の指示をしなかったところ労働者が法定労働時間をこえて労働した場合において、使用者は指示を明言していないなどの理由で割増賃金の支払を拒むことがありますが、労働者は労務の提供をしているので、その時間は時間外労働となります。

 裁判例でも、「担当業務をこなしていくために時間外労働・休日労働を行うことが少なくとも黙示的には承認されていたというべきであって、このような実態に照らすと、原告の時間外・休日労働については黙示の業務命令に基づき行われていたものと認めるのが相当である」として、明示の指示・命令がなくても、黙示の指示があると認められる場合には、時間外・休日労働として取り扱うべきものと判断されています(デンタルリサーチ社事件[東京地判平22.9.7])。

 

 

<POINT4.始業時刻前出社>

 なお、始業時刻前の出社について、裁判例では、居残り残業とは異なり、遅刻しないように早めに出社するなどの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないこともありうるので、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきであると判断されています(八重椿本舗事件[東京地判平25.12.25])。

 

 

<POINT5.使用者による指示をこえた時間>

 使用者による時間外労働の指示をこえて労働者が労働した場合についても、指示された時間は目安にすぎず、実際に労働した時間が労働時間となります。

 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20基発0120第3)では、「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している」とし、「労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」としています。

 

<POINT6.お題の場合>

 今回のお題の場合は、管理職が従業員の自主的な残業を黙認していますので、時間外労働として取り扱われ、割増賃金の支払も必要になります。

 今後の対応としては、時間外労働は管理職が必要と認めた場合のみ命じる旨を改めて社員に説明して、自主的な残業をやめさせることが必要と考えます。そのうえで、開発部門の従業員について、能力に見合った仕事の割り振りをしているか、根本的に人数が足りないのか、仕事の手順や段取りがきちんと指示されているか等、開発部門自体の構造を見直してみることも必要かもしれないと考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 昭25.9.14基収2983
  • 平29.1.20基発0120第3
  • デンタルリサーチ社事件[東京地判H22.9.7]
  • 八重椿本舗事件[東京地判H25.12.25]