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■採用試験受験者のSNSを閲覧し、その内容を採用の判断材料としてもよいか

 最近は多くの人がSNSを利用しています。採用面接では見せないような一面がSNSの投稿内容で知ることができるため、採用試験を一定の段階まで進んだ対象者のSNSを閲覧し、そこに投稿されている内容などを採用の判断材料としてもよいのか。

 採用選考にあたっての調査は、本人からの申告等により行うのが一般的ですが、お題のようにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を閲覧する方法による調査についても、その方法自体は公正な採用の観点などから特に問題となるものではなく、基本的に企業活動としての合理性を欠くものではないので、違法ということにはならないと考えられます。

ただし、その場合には、

  1.  個人情報保護の観点から、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます。)に違反しないようにすること
  2.  採用にかかる紛争を予防し、公正な採用選考を行う観点から、調査項目については、就職差別の原因となるおそれがあるなどの個人情報については、原則としてこれを収集しないようにすること

に留意する必要があります。

<POINT1.採用時の調査>

 企業には自由に経済活動を行うことができるよう、法律等で制限されていないかぎり、契約締結の自由が認められており、企業は労働契約の締結、すなわち労働者を採用をするかどうかについても、原則としてこれを自由に決定することができます。したがって、採用にあたっては、どのような人をどのような条件で雇うかについては、法律等による特別の制限がないかぎり、原則として自由にこれを決定することができ、その採否の決定にあたっての判断材料を得るための必要な範囲での調査についても、原則として自由に行うことが認められています(三菱樹脂事件[最判S48,12,12])

このような調査は、本人からの申告等により行うのが一般的ですが、お題のようにSNSを閲覧する方法による調査についても、その方法自体は公正な採用の観点などから特に問題となるものではなく、基本的に企業活動としての合理性を欠くものではないので、違法ということにはならないと考えられます。ただし、その実施にあたっては個人情報の保護や公正な選考採用の観点から、以下のような点に配慮する必要があります。

近年では、採用する企業が外部の調査会社に対して特定の求職者が過去にSNSへ投稿した内容の調査を委託し、その調査結果を採否の判断材料に活用しているといった事例が増えてきているようです。これについては、採用企業と調査会社が個人情報の利用目的を本人への通知またはホームページ等で公表していれば個人情報保護法上の問題はないと考えられますが、この場合においても、以下のに記したような点に配慮する必要があります。

 

 

<POINT2.個人情報の保護>

 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(以下「ガイドライン」といいます。)においては、SNSで公にされている特定の個人を識別できる情報については個人情報に該当するとされています。したがって、採否の決定にあたっての判断材料を得るための調査にあたって、必要な情報をSNSで収集する場合には、個人情報保護法に違反しないよう、以下の点に配意することが必要です。

 すなわち、個人情報を取得する場合には、あらかじめ利用目的を公表するか、取得後すみやかにその利用目的を本人に通知するか公表するかしなければなりません(個人情報保護法21条1項)

この措置は、SNSで本人が自主的に公にしている個人情報を取得する場合にも必要となります。そのため、SNSで個人情報を収集するつもりであれば、収集した情報を応募者の採否の判断材料として利用するということを、あらかじめホームページに掲載するなどして公表しておくことがいいと考えます。特に、その個人情報が「要配慮個人情報(本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、犯罪の被害歴、身体・知的・精神的障害等の心身の機能障害などに関する情報)」(個人情報保護法2条3項、個人情報保護令2条)に該当するものについては、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないようその取扱いについて特に配慮が必要なため、その取得にあたっては、SNSに本人自身がその情報を公開している場合を除き、あらかじめ本人の同意を得なければなりません(個人情報保護法20条2項)。

 ただし、採用面接の担当者等が、単にSNSを閲覧するにすぎず、転記等を行わない場合には、個人情報を取得したことにはなりませんので、前記のような公表等の手続は必要ないこととなります。

 

 

<POINT3.公正な採用選考>

 企業の採用選考にあたっては、求職者等の基本的人権を尊重した公正な採用選考を実施するため、応募者の適性、能力とは関係のない事柄で採否を決定しないようにすることが重要です。また、求職者等の個人情報の取扱いについては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして求職者等の個人情報の収集をしなければならないとされています(職安法5条の5)。

 なお、業務の目的を明らかにするにあたってはインターネットの利用その他適切な方法により行う必要があります。この具体的な内容については、「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号。以下「指針」といいます。)において、次の1.、2.および3.の社会的差別の原因となるおそれがあるなどの個人情報については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって収集目的を示して本人から収集する場合を除いては、収集してはならないとされています。

  1. 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
  2. 思想および信条
  3. 労働組合への加入状況

 

 

<POINT4.お題について>

 お題についてですが、上記のとおり企業がSNSを閲覧して採否を判断するための材料を収集することは許されますが、その場合には、

  1.  個人情報の保護の観点から、個人情報保護法に違反しないようにすること
  2.  採用にかかる紛争を予防し、公正な採用選考を行う観点から、調査にあたっては指針を尊重した対応をとること

に留意しておくことが必要です。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


≪参考となる法令・通達など≫

  • 個人情報保護法2条3項、20条2項、21条1項
  • 個人情報保護令2条
  • 職安法5条の5
  • 職安則4条の4
  • 平11.11.17労告141
  • 平28.11.30個保委告6

 

 

≪参考となる判例≫

  •  三菱樹脂事件[最判S48.12.12]