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■インフレ手当導入の際の留意点

 当社は、このところの物価高騰により、インフレ手当を支払うことを考えている。

 その場合、インフレ手当の支給を今回限りの「一時金」とするか「月額手当」とするか決めかねている。「インフレ手当」 を支給する際の留意点を教示いただきたい。

 また、対象者を限定したり、金額に差をつけることはできるのだろうか。

 お題では、急激に物価が上昇したことから、労働者の生計費を補助するため、新たに 「インフレ手当」 を支給するとのことで、賃金の支給の方法としては、一時金で支給する場合と毎月決まって支給する場合があります。

 毎月決まって支給する(基本給に組み込む様な)場合には、昇給またはベースアップしたことと同じ状況になり、賃金の増額、社会保険料や割増賃金等の労働コストが増加することになります。

 また、通勤手当や家族手当のような基本給を補完する諸手当で支給する場合は、支給対象者の限定や金額に差をつけることは可能と考えます。

<POINT1.「インフレ手当」とは>

 賃金とは、労働基準法第11条では、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもので、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わないとされています。

 本件の「インフレ手当」は、世界的なエネルギーの不足や食糧の不足等により急激な物価高騰となったことから、労働者からの不満が出ないように、 労働者の生活を支援するために支給する手当であり、原則として賃金に該当します。

 また、賃金は労働者の生計費であり、一般の労働者にとっては賃金が唯一の収入であり生活の糧となっています。そのため、生計費は、賃金決定の主要な要素であり、労働者からすれば最も重視する点になります。

 したがって、消費者物価が上昇し、生計費が不足すれば生活水準が下がることになるため、当然賃金をアップしてほしいとの要求が強くなり、その対応が求められているのが多くの状況です。

 労働者個々の賃金を増加させる場合には、一般的に(定期)昇給やベースアップがありますが、今回のお題の様な「インフレ手当」は、 それとは別の臨時的な「手当」として支給することを指します。

 この手当を、毎月定額で支給する場合には、定期給与と同様となり算定方法等をあらかじめ就業規則等に規定し、その支払いが確定しているものは、賃金として保護されます。

 日本の賃金制度の特徴としては、家族手当、通勤手当のように、生活に必要な賃金項目が多く、その決め方が生活保障的であり、インフレ手当もこれに近いものと考えます。ただし、見舞金等のように、支給条件が不確定の場合には、使用者の裁量に委ねられており、任意恩恵的給付となり、労働の対償としての賃金ではありませんが、就業規則等であらかじめ支給条件が明確になっており、支払義務があるものは賃金と取り扱われます。

 

 

<PIONT2.「インフレ手当」 支給の留意点>

 「インフレ手当」 を、労働の対償として使用者が支給するものであり賃金に該当することから、就業規則等に規定する必要があります。

 また、手当を新たに支給することは、賃金額が増加することから、会社の人件費が増加することになります。具体的には、月額賃金、割増賃金、社会保険料や労働保険料にも影響 (増加) することになります。

 また、パート労働者等の非正規労働者についても手当を支給するかどうかも問題になり、支給することになれば人件費が増加することになります。

 そこで、「インフレ手当」を支給する場合、会社の人件費の増加を今回はやむを得ないとして許容するのか、または最小限に抑えるのかを検討する必要があります。月額手当として定額で支給することは、賃金の昇給やベースアップすること等と同じになり、毎月、定期日に支払う必要があり、人件費増加の影響が大きくなります。また、賃金には、下方硬直性があり、毎月定額で支給する場合は、一旦アップした賃金はなかなか下げられない性格があります。

 また、賞与のように一時金として支給する場合は、一時金であり、毎月支払う必要はなく、弾力的な運用が可能であり、人件費への影響は限定されますが、その分支給額が不確定であることから、その恩恵が低下し人材確保や定着の効果は少なくなると考えられます。

 

 

<PIONT3.支給対象の限定等が可能か>

 「インフレ手当」 を支給する場合、支給対象者や支給額に差をつけることができるか否か、について考えます。

 一般に、賃金の決め方については、会社ごとに決められ、賃金の項目およびその構成割合がそれぞれ異なっています。

 「インフレ手当」を、基本給や諸手当のような毎月決まって支給する賃金とするか、賞与・一時金のように金額が決まっていない特別に支給する賃金にするかが問われます。

 基本給などのいわゆる「仕事給」は、毎月決まって支給する賃金であることから、就業規則等で決められたとおり支給することが求められます。また、家族手当や通勤手当などの諸手当は、労働者の家族数や通勤距離等を考慮して決定される生計費を補う手当であり、支給対象者の範囲や支給額については企業によって異なっていて、その支給条件の決め方によっては、人件費を抑制することができます。賞与・一時金は、特別な賃金・付加的賃金であり、基本給に比べ、支給要件の決め方では弾力的に運用できることから、会社の経済的な負担が限定的となります。また、割増賃金の算定基礎にも含まれないことも、会社にとっては重要な判断要素であると考えます。

 よって、 今回のインフレ手当は、急激な物価上昇に対応するため支給を考えているもので、その性格から生活給的手当であって、労働者全員を対象として支給されるべき(少なくとも労働者側からはそういった意識・認識の強い)手当であり、その点を踏まえて導入を検討いただければ、と考えます。

 会社の状況により人件費の抑制をする必要がある場合には、毎月支給の金額の減額や家族数等に応じて支給する等、支給要件や金額等を制限することがベターと考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

  • 労基法11条、24条
  • 昭22.9.13基発17