当社では、営業者に歩合給の賃金制度を導入する予定だが、歩合給の賃金制度を導入し、法定労働時間をこえたときの割増賃金についてはどのように支給すればよいか。
割増賃金の基礎となる賃金には、月給、請負給など種々の形態があるため、労働基準法施行規則第19条において通常の労働時間の賃金の計算方法が規定されています。
歩合給での計算方法は、その賃金算定期間において歩合給によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間における総労働時間で除した金額になります。
また、会社によっては、基本給(月給)のほかに歩合給を支払っている場合がありますし、あるいはすべて歩合給として支払っている場合も見受けられます。
このような場合の時間外・深夜労働等に対する割増賃金の支払いは、それぞれの場合に分けて支払うことになります。
なお、平成30年、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により労働基準法等の改正が行われ、限度時間が告示から法条文に格上げされたり労働時間の規制等にかかる関係条文が大幅に改正され、原則として平成31年4月1日から適用されていますので、注意が必要です。
<POINT1.時間外労働の割増率について>
労働基準法第37条第1項では、時間外労働の割増率について
- 1か月の時間外労働が45時間以下の場合は2割5分以上
- 1か月の時間外労働が45時間をこえ60時間未満(同法第36条第4項の限度時間)の場合は2割5分をこえる率(努力義務)、
- 1か月の時間外労働が60時間をこえる場合は5割以上(代替休暇を付与する場合は2割5分以上※)
となっています。
※代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増率は2割5分以上で労使協定にて定めることになります。
<PIONT2.基本給+歩合給の場合>
まず、基本給+歩合給の支払方法をとっていて、時間外割増率が25%の場合についてご説明します。
歩合給であっても、法定時間外労働を行った場合には割増賃金を支払う必要がありますから、割増賃金は、次の①と②の合計額に時間外時間数を乗じた額となります。
①基本給部分=1か月の時間単価×時間外割増率(1.25)
②歩合給部分=1か月の時間単価×時間外割増率(0.25)
なお、②の歩合給部分における1か月の時間単価は、①とちがって所定労働時間で除するのではなく、歩合給は総労働時間により得ているわけですから、総労働時間で除することとなります。ここでの総労働時間とは、労働時間の総数であって時間外または休日労働時間数も含んだすべての労働時間をいいます。
また、時間外割増率は、歩合給額の中にすでに割増以外の部分が含まれているので、0.25などの率を乗じることとなります。
以上を、具体例で計算してみます。
- 基 本 給 :200,000円
- 歩 合 給 :150,000円
- 所定労働時間:172時間
- 所定外労働時間:40時間
- 総労働時間 :212時間
- ①基本給部分=200,000/172×1.25
- ②歩合給部分=150,000/212×0.25
- 割増賃金=(①+②)×40
となります。
<PIONT3.一定の賃率による歩合給の場合>
次に、たとえば、タクシー会社などにおいては、計算の便宜上、時間外労働や深夜労働に対する割増賃金の支払い方法として、通常時間の賃金(基礎賃金)と割増賃金とを合わせたものを一定の賃率による歩合給として、一律に払う方法(オール歩合制)をとっている場合があります。
こうした場合、歩合給において割増賃金と基礎賃金とが明確に区別でき、割増賃金相当部分を控除した基礎賃金によって計算して支払われるべき割増賃金額と、実際に支払われた割増賃金額との比較対象ができ、適法に割増賃金が支払われているかどうかが確定できる限りにおいて、労働基準法に違反することにはならないでしょう。なお、このような賃金制度の場合は保障給を定める必要がありますので注意してください。
<PIONT4.裁判例>
- タクシー運転手が、通常の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別できない歩合給の支給があっても、残業代が支払われたとはいえないとして、残業代を請求した事件について、裁判所は「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべき」であり、よって「時間外及び深夜の労働について、法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある」と判示しました(高知県観光事件[最判H6.6.13])。
- トラック運転手の給与条件について、歩合給制であるか月給制であるか、また割増賃金の算定方法等について争われた事件で、入社に際して会社から歩合給制によるとの説明を受けていましたが、裁判所は、「その自由な意思に基づいて本件歩合制合意を受け入れたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していない」ことや「完全歩合制の慣行が労使双方の規範的意識によって支えられているものとみることはできない」と判断し、「基本給と時間外手当等の割増賃金に当たる部分と判別できず、……各月の月間総給与支給額を月間給与とみて……割増賃金の算定を行うべき」と判示しました(コーダ・ジャパン事件[東京高判H31.3.14])。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
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≪参考となる法令・通達など≫
- 労基法27条、36条、37条
- 割増賃金令
- 平30.9.7厚労告323
- 昭23.11.25基収3052
- 平30.9.7基発0907第1
- 高知県観光事件[高知地判H1.8.10]
- 高知県観光事件[最判H6.6.13]
- コーダ・ジャパン事件[東京高判H31.3.14]