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■自宅から訪問先への移動は労働時間か

 当社は保険会社で、一部外勤社員の勤務形態として、会社から送付した資料を元に訪問先を訪ね、確認業務などを行わせている従業員がいる。

 この度、その従業員から、自宅から訪問先への移動にも、会社から様々な指示事項があるので労働時間になるのではないかという申し出があった。

 移動に際しての心得から、資料の持ち出しについての誓約まで、多くの遵守事項を設けてはいるが、通常の注意義務の範囲内のことだと考えており、労働時間にはならず、通勤時間として扱ってきた。

 このような移動時間が労働時間となるケースもあるのか。

 自宅から訪問先に直行する場合の移動時間は、移動中に行うべき労働内容を具体的に特定して指示していない限り通勤時間と考えられ、労働時間にはなりません。

<POINT1.直行・直帰とは>

 業務における「直行」および「直帰」とは、一般的に、それぞれ「会社を経由せず、自宅から直接、業務上の目的地へ移動すること」「業務上の目的地での業務終了後、会社を経由せず直接自宅へ移動すること」と言えます。

 

 

<POINT2.労働基準法上の労働時間とは>

 労働基準法第32条の労働時間について、最高裁は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいい、労働時間に該当するか否かは、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」としています(三菱重工長崎造船所事件[最判H12.3.9])。

 

 

<POINT3.直行・直帰と労働時間>

 通常、直行または直帰のための移動時間は、移動中に行うべき労働内容を具体的に特定して指示していない限り、「使用者の指揮命令下に置かれている」とは言えません。行政解釈においても「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない。」とされています(昭23.3.17基発461)。

 したがって、直行または直帰において、前述の「別段の指示」がない限り、移動時間は労働時間には該当せず、通勤時間となります。

 

 

<POINT4.お題の場合>

 お題の場合においては、「移動に際しての心得から資料の持ち出しについての誓約まで多くの遵守事項を設けている」ことが、前述の「別段の指示」に該当するかということが問題になります。

 当該従業員の業務内容を考慮すれば、業務に関連する資料を持ち歩くことに伴い管理義務が発生することは当然のことと考えられ、たとえ会社による指示事項の遵守を強制されるとしても、このことから直ちにこの時間が労働時間となるものではありません。

 遵守事項の具体的な内容が明らかではありませんが、直行のための移動時間に行うべき労働内容を具体的に特定して指示したものではないと考えられる場合には、「別段の指示」には該当しません

 つまり、お題にあるような移動時間における単なる書類保持・管理だけでは労働時間には該当しないと考えます

 なお、直行により労働時間の算定が困難な場合は、「特定の時間」を労働したものとみなすという、労働基準法第38条の2の事業場外労働のみなし労働時間制を適用する方法も考えられます

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

 

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《参考となる法令・通達など》

  • 労基法32条、38条の2
  • 昭23.3.17基発461
  • 三菱重工長崎造船所事件[最判H12.3.9
  • 日本インシュアランスサービス事件[東京地判H21.2.16]