· 

■行方不明者の解雇について

 当社には、今年の長期連休以来消息を絶ってしまった従業員がいる。

 家族も捜索願を出しているそうだが、半年経った今でも何の連絡がない。

 当社としても、連絡のないままずっと雇用し続けるわけにもいかず、近いうちに解雇手続をとりたいが、行方不明者の解雇についてどのように扱えばよいのか。

 解雇というのは、使用者側からの労働契約を一方的に解除する意思表示であり、それが労働者に到達することによって成立するものです。

 したがって、通常の場合は、現に勤務している労働者に対して意思表示をすれば足りるものですが、お題「Q」のように、半年もの間、行方不明で家族でさえも連絡がとれないような状態の場合の解雇は、民法で定められている公示送達と呼ばれる方法をとらざるを得ないと考えます。

 具体的には、解雇の意思表示について、裁判所の掲示場に掲示し、かつ掲示したことを官報および新聞に少なくとも1回掲載するか、裁判所の判断によって、それらに代えて市役所、町村役場などの掲示場に掲示される必要があります。

 解雇の意思表示は、この官報、新聞などへの掲載日から2週間を経過した時に相手方従業員に到達したものとみなされ、解雇が成立することとなります。

<POINT1.解雇と公示送達>

 お題「Q」にあるような、労働者の所在が長期間がつかめず、何の連絡もとれないような場合には、これ以上労働関係を継続していくことが不適当となり、解雇、あるいは場合によっては労働者の任意退職として扱うこととなります。

 そこで、まず、解雇手続をとる場合についてご説明します。

 この場合には、公示送達によって相手方に解雇の意思を表示することとなります。労働契約のもつ性格から、本人からの委任がない以上、家族の了承などがあっても解雇の意思が表示されたことにはならないからです。

 民法第98条は、公示による意思表示の方法を認めており、民事訴訟法に定められた公示送達の要件、公示送達の方法、公示送達の効力発生の時期、および公示送達による意思表示の到達に従って手続をとることになります。

 なお、この場合の意思表示の内容について、解雇するには、労働基準法第20条に定められた予告または予告手当の支払を行わなければならないことから、予告手当の支払はさらに供託を行う必要があろうということを考えると、公示送達により解雇の意思表示が到達したとみなされる日から30日以上の期間をとって解雇の日を定めることによって30日以上前の予告を行うこととされるのが適当ではないか、と考えます。

 

 

<PIONT2.行方不明と任意退職>

 一方、お題「Q」のような長期に労働者が行方不明となっているような場合、もう一つ考えられるのは、労働者からの労働契約の解除、すなわち任意退職の意思表示があったものとして解されないかという問題があります。

 労働契約の解除は、使用者からの解雇の意思表示と労働者からの退職の意思表示といういずれか一方からの行為で成立しますので、行方不明になった状況、その後の状況などから判断して、明らかに退職の意思を黙示的に表していると解される場合には、任意退職として取り扱ってよい場合もあると思われます。

 行政解釈において、炭鉱労働者の無断退山について、それが明らかに労働者の解約申入の意思表示であると認められるべきかぎり、労働基準法第20条の解雇手続をとることを要しない旨、示したものがあります

 ただ、何をもって、明らかに労働者の解約の申入れの意思表示と見ることができるかについては、個々のケースごとに判断しなければならないと考えられますので、公示送達による解雇手続をとっておく方が無難である、と考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

――――――――――――――――

≪参考となる法令・通達など≫

  • 労働基準法20条
  • 民法98条
  • 民事訴訟法110条~113条
  • 昭23.3.31基発513