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■1か月単位の変形労働時間制④~1か月単位の変形労働時間制において労働時間の短い日と長い日を交換できるか~

 当社の規程では、繁忙期である特定の1週間を1日9時間勤務とし、他の日は7時間勤務としているが、7時間勤務の日も繁忙期並に業務量が増える場合がある。

 そのような場合、9時間勤務の日と7時間勤務の日を交換すれば、時間外労働を発生させることなく、業務量の増大に対応できると考えるが、そのような対応は認められるのか。

 1か月単位の変形労働時間制において、労働時間の短い日と長い日を交換することについては、少なくとも、就業規則などで、労働者がやむを得ないと納得できるような事由を具体的に定めておくことが必要です。

 その際、「業務上の必要がある場合、指定した勤務時間を変更する」といった包括的な内容ではなく、「重要な機械のトラブルが発生した場合」「通常の2倍以上の発注が突発的に発生した場合」など、できるだけ具体的に規定しておかねばならないと考えます。

<POINT1.1か月単位の変形労働時間制>

 1か月単位の変形労働時間制は、労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより、1か月以内の一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間をこえないことを条件に、1週または1日の法定労働時間の制限をこえて労働させることが可能になります。こうすることで、法定労働時間より長く定めた週や日にその時間まで労働させても時間外労働とは取り扱わなくてもよくなります。

 例えば、暦日数が31日の月だと、177.14(週法定労働時間40時間×暦日数31日÷1週間の暦日数7日)時間内であれば、ご質問のケースのように特定の週を45時間(9時間×5日)と定めるとともに、他の特定の週を35時間(7時間×5日)と定めることが可能です。

 こうした労働時間の設定は、あらかじめ就業規則などで年間を通して定めることが多いですが、業種によっては毎月ごとに勤務割表で対応する場合も考えられます。この点に関して通達では、「就業規則において、勤務割表の作成手続およびその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。」としています。

 

 

<POINT2.特定された労働時間の変更の可否>

 しかし、当月の勤務表は前月の末日までには、各週や各日の労働時間を特定するものですから、当月になってから急激な業務量の変動があった場合には、特定の週や日の労働時間を当初の勤務割から変更して対応する必要が発生することも実務上では発生することが考えられます。

 この場合、例えば週45時間と法定労働時間より5時間長く設定した週と週35時間と法定労働時間より5時間短く設定した週を交換するのであれば、1か月の総労働時間には変化がないので、本来の労働時間の短い週や日に法定労働時間より長く労働させても、その法定労働時間をこえた時間分を時間外労働と取り扱う必要がなければ、会社として賃金コストの抑制にもなります。

 しかし、これについて、通達では、「変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない。」として、会社の都合での変更は認めていません。

 

 

<POINT3.変更の要件とは>

 それでは、どのような要件が揃えば、1か月単位の変形労働時間制で一旦特定された労働時間の変更が可能になるのか。

 1か月単位の変形労働時間制の変形期間開始後の労働時間の変更が争いになったJR東日本事件[東京地判H12.4.27]では、「就業規則に労働者が見て、どのような場合に変更が行われるのかを予測することが可能な程度に変更事由を具体的に定めること」が必要とされています。

 また、JR西日本(広島支社)事件[広島高判H14.6.25]では、変更が許される例外的・限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることが必要とされています。

 したがって、できる限り実務で発生する事項の中で、労働者から納得が得られるような記載を具体的にしておく必要があります

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

  • 労基法32条の2
  • 昭63.1.1基発1・婦発1
  • 昭63.3.14基発150・婦発47
  • JR東日本事件[東京地判H12.4.27]
  • JR西日本(広島支社)事件[広島高判H14.6.25]