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■1か月単位の変形労働時間制③~1か月単位の変形労働時間制の要件~

 「1か月単位の変形労働時間制」を実施するための要件はどのようなものか。

 1か月単位の変形労働時間制を採用する場合の要件としては、

  1. 労使協定または就業規則その他これに準ずるものにおいて
  2. 変形期間を1か月以内の期間とし
  3. 変形期間を平均し1週間あたりの労働時間が法定労働時間をこえない範囲内において
  4. 変形期間における各日、各週の所定労働時間を特定すること

が必要です。

<POINT1.1か月単位の変形労働時間制の要件>

 1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、

  1. 労使協定または就業規則その他これに準ずるものにおいて
  2. 変形期間を1か月以内の期間とし
  3. 変形期間を平均し1週間あたりの労働時間が法定労働時間をこえない範囲内において
  4. 変形期間における各日、各週の所定労働時間を特定すること

が要件とされていますが、変形期間を平均し、法定労働時間の範囲内であっても、使用者が業務の都合によってその都度任意に、労働時間を変更するような制度は、これに該当しません(昭63.1.1基発1)

 

 

<POINT2.就業規則>

 就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する事業は、労働基準法第89条により就業規則の作成義務がありますので、1か月単位の変形労働時間制をとる場合は、必ず就業規則でこれを定めなければなりません(なお、労働協約で1か月単位の変形労働時間制をとることはもちろん可能ですが、この場合にも、その旨を就業規則に規定する必要があります。)

 したがって、「その他これに準ずるもの」とは、第89条の規定によって就業規則を作成する義務のない常時10人未満の労働者を使用する事業で1か月単位の変形労働時間制を採用する場合に作成するものを予定したものであり、このような定めをしたときは、労働基準法施行規則第12条により労働者に周知しなければなりません。

 なお、1か月単位の変形労働時間制については、制度の新規採用、改訂にあたっては、就業規則の変更が必要であり、その際には労働者代表の意見を聴くこととされていますので、その意見を踏まえて適切に対処することが望まれます。

 「就業規則その他の定め」の定め方については、単に「1か月以内の一定期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えない範囲内において、1日8時間を超えて労働させることがある」などと規定するのみでは足りず、たとえば16時間隔日勤務制のように、1日8時間の制限を超える日はもちろんのこと、それを超えない日も含めて、その期間中の全労働日の労働時間が、明らかとなるような定め方をすることが必要です。

 また、勤務ダイヤによる1か月単位の変形労働時間制を採用する場合、各人ごとに、各日、各週の労働時間を就業規則に定めなければならないか、それとも、就業規則では、「始業、終業時刻は、起算日前に示すダイヤによる」とのみ記載し、起算日前に勤務ダイヤを示すことだけで足りるかが問題となりますが、これについては、「就業規則においてできる限り具体的に特定すべきものであるが、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる。」という行政通達が示されています。

 このほか、就業規則の規定に際しては、各日の労働時間の長さだけではなく、始業および終業の時刻を定めることが必要であり、また、変形労働時間制をいつから始めるのか、その起算日を明定することも必要です。

 

 

<POINT3.労使協定による場合の留意点>

 「就業規則その他これに準ずるもの」の他に、労使協定(書面によらなければなりません。以下同じ。)に、

  1. 1か月以内の一定の期間を平均し1週間あたりの労働時間が40時間(特例事業場の場合は44時間)を超えない定め
  2. 変形期間
  3. 変形期間の起算日
  4. 変形期間の各労働日の労働時間
  5. 有効期間

を定めることによって、1か月単位の変形労働時間制を実施することも可能です。

 労使協定においても、前記の就業規則等による場合に説明したことに留意して、これを締結するようにしなければなりません。なお、1か月単位の変形労働時間制を労使協定により採用する場合には、労使協定を締結するとともに就業規則等に規定することが必要となります。そこで、就業規則で「1か月単位の変形労働時間制を採用し、具体的には労使協定で定めるところによる」というように定めることについては、労使協定を就業規則の一部として取り扱うのであれば可能であると解されますが、その場合には、労使協定は就業規則の一部となるので、労使協定を締結する都度、就業規則を変更することとなり、そのための手続をしなければならないとされています。

 なお、労働基準法第38条の4に基づく労使委員会または労働時間等の設定の改善に関する特別措置法に基づく労働時間等設定改善委員会が設置されている場合には、これらの委員会による決議を労使協定に代えることができますが、この場合にも労使協定を締結する場合、就業規則等による場合と同様です。

 1か月単位の変形労働時間制についての労使協定は、労働基準法施行規則で定める様式により、これを行政官庁(労働基準監督署)に届けなければなりません。

 また、この労使協定は、見やすいところに掲示するなどにより労働者に周知させなければなりません。

 

 

<POINT4.届出の押印等の取扱い>

 1か月単位の変形労働時間制に関する協定届は、使用者の記名のみで届出を行うことが可能となり、押印または署名を求められないこととされました。

 電子申請により、この届出を行う際には、厚生労働省の所管する法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律施行規則第6条第1項各号に掲げる措置として、例えば電子署名を行い、電子証明書を併せて送信する措置のほか、届出を行う者の氏名を電磁的記録に記録することをもって代えることができます。

 さらに、使用者または労働者と社会保険労務士等との間に提出代行に関する契約があることを証明する書面および社会保険労務士証票の写しを添付することにより、電子署名を行い、電子証明書を併せて送信することなく、社会保険労務士等が電子申請による提出代行を行うことも可能です。

 なお、協定書における労使双方の押印または署名の取扱いについては、労使慣行や労使合意により行われるものであり、「行政手続」における押印原則の見直しは、こうした労使間の手続に直接影響を及ぼすものではありません。引き続き、記名押印または署名など労使双方の合意がなされたことが明らかとなるような方法で締結する必要があります。

 労使協定により、1か月単位の変形労働時間制を実施する場合に、就業規則の扱いはどうするかという問題があります。就業規則には、始業および終業の時刻を記載しなければなりませんので、労使協定により、1か月単位の変形労働時間制を実施する場合でも、就業規則の変更が必要となります。

 

 

<POINT5.「労働時間の特定」の要件を満たさないとされた事例>

 使用者が1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、少なくとも就業規則上、始業時刻、終業時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定し、勤務割表がその組合せのみによって決まるようにし、またその組合せの法則、勤務割表の作成手続や周知方法等を定めておくことが求められているものというべきであって、法定労働時間を超える日および週をいつとするのか、またその日、週に何時間の労働をさせるのかについて、使用者が全く無制限に決定できるような内容となっている就業規則の定めは、労働基準法第32条の2第1項が求める「特定された週」または「特定された日」の要件に欠けるものといえます。

 使用者が就業規則の各規定に従って勤務割表を作成し、これを事前に従業員に周知させただけでは、同条の「特定された週」または「特定された日」の要件を充足するものではありません(岩手第一事件[仙台高判H13.8.29])ので注意が必要です。

 

 

<POINT6.育児等の時間の確保>

 変形労働時間制によって労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければならないこととされています。

 

 

<POINT7.1か月単位の変形期間における法定労働時間の総枠>

 1か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、変形期間(1か月以内の一定の期間)を平均し1週間の労働時間が法定労働時間を超えない定めをすることが要件とされていますが、これは、要するに、変形期間における所定労働時間の合計を次の式によって計算される変形期間における法定労働時間の総枠の範囲内とすることが必要であるということです。

 

変形期間における労働時間の総枠=1週間の法定労働時間×変形期間の週数(変形期間の日数/7日)

 

 たとえば、1週40時間で1か月を変形期間とする場合、

  • 31日の月ならば1か月の労働時間の総枠は177.1時間(≒40時間×31日/7)
  • 30日の月ならば171.4時間(≒40時間×30日/7)
  • 4週を単位とする場合には、160時間(=40時間×28日/7)

となります。

 このように、各事業場が選択した期間に応じた法定労働時間の総枠を計算し、その範囲内で、特定の週または特定の日の労働時間の長さをそれぞれ定めればよいことになります。ただしこの時間は、1か月単位の変形労働時間制を採用した場合における変形期間を通じての法定労働時間となります。

 したがって、1週および1日の法定労働時間の枠内であっても、変形期間を通じてこの時間を超えて労働させる場合には、その超える部分の時間は、時間外労働となります。

 

 

<POINT8.その他留意する事項>

(1)適用除外

ア 年少者

 満18歳未満の年少者については、労働基準法第60条第1項の規定により、1か月単位の変形労働時間制の規定は適用しないこととされています。

 なお、この規定はフレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制の規定についても同様です(ただし、同法第60条第3項第2号により満15歳以上満18歳未満の年少者は1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において1か月単位の変形労働時間制または1年単位の変形労働時間制の規定の例により労働させることができることとされています。)。

 

イ 妊産婦等

 妊産婦については労働基準法第66条第1項により、妊産婦が請求した場合には変形労働時間制(フレックスタイム制を除きます。)を採用している場合にも、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させてはならないこととされています。

 この請求は、1日または1週間の法定労働時間を超える時間の全部についてまたは一部についても認められるものと解されています。

 なお、妊産婦がこの請求をせずに変形労働時間制によって労働する場合には、同法第67条の育児時間規定は、あくまでも最低基準を定めたものであって、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させない旨の請求をせずに変形労働時間制のもとで労働し、1日の所定労働時間が8時間を超える場合には、具体的状況に応じ法定以上の育児時間を与えることが望まれます。

 

(2)特別の配慮を必要とする者への配慮

 使用者は、1か月単位の変形労働時間制のもとで労働者を労働させる場合には、育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をするようにしなければなりません。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

  • 労基法32条の2
  • 労基則12条、12条の2、12条の2の2、12条の6
  • 労働時間等設定改善法7条
  • 昭22.9.13発基17
  • 昭23.7.15基発1690
  • 昭29.6.29発基355
  • 昭42.12.27基収5675
  • 昭63.1.1基発1・婦発1
  • 昭63.3.14基発150・婦発47
  • 平6.3.31基発181
  • 平7.1.1基発1
  • 平11.1.29基発45
  • 令2.12.22基発1222第4
  • 令3.3.10基政発0310第1・基監発0310第1・基賃発0310第3
  • 「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令に関するQ&A」(令2.12厚生労働省労働基準局)