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■時間外労働と割増賃金の関係

 労働基準法が改正され平成22年4月1日から、時間外労働に対する割増賃金率が引き上げられ、2023年4月1日より、中小企業にも適用されると聞いている。

 そこで、今更ではあるが、改正法施行後の時間外労働と割増賃金の関係について詳しく教えていただきたい。

 平成20年の労働基準法(平成22年4月1日施行)の改正は、労働者の長時間労働を抑制し、健康を確保しながら仕事と生活の調和が図れる労働環境を整備することを目的として行われました。

 具体的には、割増賃金率を引き上げ、使用者に経済的な負担を課すことで時間外労働を抑制するという内容です。

 改正事項のうち時間外労働と割増賃金に関するものは2つあります。

  1. 法定労働時間を超える時間外労働のうち1か月で60時間を超える時間外労働について、割増賃金率を25%以上から50%以上に引き上げるもの。
  2. 時間外労働に関する労使協定を定める際に、限度時間(1か月45時間、1年360時間)を超える時間外労働について法定の25%を超える割増賃金率とするように努めること。

 企業の対応としては、割増賃金率の引上げ分の支払に代わる代替休暇など、その他の改正事項を理解し、導入を検討することも必要ですが、まずは所定労働時間内に決められた業務が終了できるよう体制を整備して、時間外労働そのものを削減することが重要です。

<POINT1.割増賃金率の引上げ>

(1)1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ

 1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合は、その超えた時間について通常の労働時間に対する賃金額の50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

 この1か月とは、暦による1か月をいい、その起算日は就業規則の絶対的記載事項「賃金の決定、計算および支払の方法」として就業規則や給与規程に記載する必要があります。

 起算日は、賃金計算期間の初日、毎月1日、時間外協定の起算日等が考えられますが、就業規則に特段の定めがない限り、賃金計算期間の初日が起算日となります。

 また、50%以上の割増賃金が必要となる時間外労働とは、1か月の起算日から法定労働時間を超える時間外労働時間を累計して60時間に達した時点から後に行われた時間外労働をいいます。

 

(2)休日労働との関係

 1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日(週1回または4週に4日の休日)に行った労働は休日労働であるため含まれませんが、これ以外の休日(所定休日)に行った労働は、時間外労働に含まれますので、60時間の累計に積算されます。

 同じ休日労働であっても、この60時間に含まれるか否かによって割増賃金額が異なりますので、労働条件の明示や割増賃金の計算処理の点から、法定休日と所定休日を明確に定めておくことが望ましいとされております。

 たとえば、土曜日を所定休日、日曜日を法定休日と定めた場合、土曜日の休日労働が月60時間を超える時間外労働であった場合は50%の割増賃金の支払が、日曜日に休日労働をした場合は35%の割増賃金の支払がそれぞれ必要となります。

(3)深夜労働との関係

 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)の時間帯に、1か月60時間を超える時間外労働をさせた場合は、深夜労働の法定割増賃金率25%以上に60時間超の割増賃金率である50%以上を加えた75%以上の割増賃金率で計算した割増賃金の支払が必要となります。

<POINT2.時間外・休日労働協定に特別条項を設ける場合>

(1)限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の定め

 特別条項付きの時間外・休日労働に関する協定において、限度時間を超えた労働について割増賃金率を定めることが義務付けられています。

 また、この割増賃金率は、1か月および1年についてそれぞれ定めます。

 

(2)限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ

 特別条項付きの時間外・休日労働協定において、前記⑴により限度時間を超えた労働について割増賃金率を定める場合、法定割増賃金率の25%を超える率とすることが努力義務とされています。

 

(3)延長する労働時間の短縮

 特別条項付きの時間外・休日労働協定を締結する場合は、延長する時間を限度時間にできる限り近づけることも努力義務とされています。

<POINT3.割増賃金の取扱い>

(1)1か月と1年で限度時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率が異なる場合

 ①1か月、②1年の期間、の双方についての延長時間の限度について特別条項付きの時間外・休日労働協定を締結し、それぞれの限度時間を超える時間外労働の割増賃金が異なる場合で、①と②の期間の時間外労働がともに限度時間を超えた場合には、協定で特段の定めがなければ一般的には高い方の割増賃金率を適用することとなります。

 

(2)1年間の限度時間を超える時間外労働に対して支払うべき割増賃金

 たとえば、1か月の限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を30%、1年の限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を40%としている場合、1年の限度時間を超える時間外労働時間数を計算する際には、特別の定めがなければ、1年間の総時間外労働時間数から1か月の限度時間を超えた時間外労働時間数を控除することはできません。

  

<POINT4.時間外労働の抑制>

 少子高齢化対策に限らず、過重労働による過労死や過労自殺の問題からも長時間労働の抑制策が強化される傾向にあります。

 割増賃金率の引上げは、特別条項を適用する時間外労働の多い企業にとっては人件費が増加する改正です。月60時間を超える時間外労働がある企業では、改正前と同じ生産性であっても人件費は増額となります。企業経営の視点では、今回の割増賃金率の引上げや時間外労働による生産性や効率面を考慮しますと、業務フローや組織・人的体制の見直し等を行い、時間外労働に頼らない体制を整備していくことも必要です。

  

<POINT5.割増賃金率の引上げ状況>

 

 厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」によると、時間外労働の割増賃金率を定めている企業のうち、1か月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率を定めている企業割合は30.0%(前年32.5%)となっており、そのうち、時間外労働の割増賃金率を「25% ~49%」とする企業割合は44.7%(前年442.5%)、「50%以上」とする企業割合は54.0%(前年56.7%)となっています。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

□労基法36条、37条

□労基則19条の2、20条

□平21.5.29基発0529001

□平21.10.5基発1005第1