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■退職の撤回を認めなければならないか

 最近、無断欠勤が2日続くなど勤務態度に問題が生じていた従業員から、退職願が出された。

 考え直すようにとの説得にもかかわらず、翌日から出勤しなくなったため、やむをえず後任の採用手続等を進めていたが、退職願提出後10日目に「退職願を撤回したい」と申し出があった。

 この場合、この申し出に応じ、退職願の撤回を認めなければならないのか。

 労働者が、労働契約の終了を目的として行う意思表示が「退職願」です。期間の定めのない労働契約の場合、労働者はいつでも退職の申し出を行うことができます。

 また、民法では、退職の申し出後原則2週間(月給制の場合、最短半月、最長1か月半。以下同じ。申し出のタイミングで異なるので注意を要します。)の経過で自動的に労働契約は終了すると規定されています(「撤回に応じなければならない」や「撤回を認めなければならない」とは規定されておりません)。

 お尋ねの場合、この民法の規定にしたがえば、労働契約は終了していませんが、会社としては後任者の採用手続も進めていたとのことですから、退職願の撤回を認めることについては消極的に考えることができます。

POINT1.退職の申し出(退職願)

 期間の定めのない労働契約について、その労働契約の終了の典型としては、使用者からする「解雇」と労働者からの「退職」があります。労働基準法上、退職に関する事項については就業規則に定めることとされています。そこで、使用者は、退職の申し出についても、予め就業規則等に「退職の申出は、〇〇日前までに、文書を提出して行うこと」のように具体的に定めておくことが望ましいと考えます。

 また、この退職願の提出については、労働者本人の本心に基づいてなされることが要求されます

 もし、その申し出が本心によるものでない場合は、民法上無効または取り消し得るものとされます。

 今回の「Q」の場合、本人に考え直すようにと説得し、翌日から出勤しなくなったという事実から見て、退職願の提出は、本人の本心によるものと考えられます。

 よって、従業員のほうから無効または取り消しを主張することはできなくなります。

 なお、民法の規定によれば雇用契約は、従業員が解約を申し出て原則2週間経過すれば終了します。つまり、退職願提出後原則2週間経過すれば、自動的に労働契約は終了することとされています。この原則2週間は解約告知期間と呼ばれ、暦日で計算します。

 今回の「Q」の場合、この民法の規定にしたがえば、退職願の提出後10日目ということで、この期間内ですので、自動的に終了する効果は発生していません。よって、退職願の撤回について、会社としてどのように対応するかがポイントとなります。

 

 

PIONT2.退職願の撤回

 労働者の退職の意思表示は、退職願の提出により使用者に到達し、先に説明した解約告知期間(原則2週間)が経過すれば、自動的に労働契約の終了という効果が発生し、その後の撤回の意思表示はできなくなります。

 しかし、その経過前であれば、一般的には、使用者の同意を得て、撤回できるものと考えられています。つまり、解約告知期間(原則2週間)経過前であれば、労働者からの退職願の撤回の申し出を認めることができるということです。

 今回の「Q」の場合、使用者の判断で撤回を承認することができることになりますが、慰留の説得に耳を貸さず、さらに翌日からの出勤拒否という状態であること、また、すでに後任者の採用手続を行っているという状況からみて、撤回に同意できない特段の事情があるとして判断されても許されることでしょう。

 このように解約告知期間経過前であっても、特段の事情があれば、撤回に同意しなければならないという法的な義務はありません。

 ただし、勤務態度が問題になっている労働者からの曖昧な退職願の提出と、それに続く撤回の申し出に対して、「これ幸い」として撤回の申し出そのものを拒絶することは、解雇と見なされる場合もあり、また、同意拒絶権の濫用ともいえる場合があるといった場合もありますので、注意が必要です。

 今回の「Q」の場合のような特段の事情の存在が必要でしょう。

 

 

PIONT3.退職日の変更

 今回の「Q」の事例とは異なりますが、退職願の提出後、会社が申し出を承諾し退職が合意された場合において、労働者の都合により退職日を変更したいという申し出があったときは、会社は、その変更の申し出を承諾する義務はないと考えてよいとされています。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

□労基法14条、89条

□民法93条~96条、627条

 

≪参考となる判例≫

□大隈鐵工所事件[最判S62.9.18]