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■事実婚をした従業員に対して結婚休暇を与えなければならないか

 当社の従業員Aには交際相手がおり、様々な理由により入籍はせず、事実婚を選択した、とのこと。

 先日そのAより、「事実婚とはいえ自分としては結婚をしたという認識であるので結婚休暇をもらえないか」との申出があった。

 当社の就業規則では慶弔休暇について、「本人の結婚の場合:5日」としか定めておらず、結婚が何を指しているのか明確に規定はされていない。

 このような場合、Aの申出は断ることはできないのか。

 一般的に「結婚」を要件とする権利義務関係の発生は法律上の婚姻関係にあることが想定されていますが、事実婚も結婚休暇の対象とするか否かは、一義的には会社が判断すべきものです。

 労使のトラブルを未然に防止するためにも、就業規則に明確に規定することが必要です。

POINT1.慶弔休暇と就業規則

 労働条件の一つである休暇については、年次有給休暇等法定の休暇のみならず、慶弔休暇や病気休暇など、会社独自で定めるものも、定めた場合には、就業規則に規定する必要があります

 その場合、休暇ごとに、

  • 休暇を取得する要件
  • 取得日数(連続か分割か、所定休日を含むか)
  • 取得可能な期間賃金の取り扱い(有給・無給の別、有給の場合いくら支給するのかなど)
  • 申請手続き等

を明確にして定める必要があります。

 「Q」の就業規則では、慶弔休暇(結婚休暇)について、本人の結婚の場合5日付与する旨規定されているようですが、同様の制度には、少なくとも「いつが『結婚』となるのか」について、「入籍の日」または「結婚式の日」とされている例が多くみられます。

 また、この場合の「結婚」に事実婚を含めるかどうかは会社の決めるところによることになりますが、趨勢は事実婚も結婚と認める傾向にあるようであることは認識いただく必要があると考えます。

 

 

PIONT2.事実婚と社会保険

 政府管掌健康保険の被扶養者認定の基準や、年金給付に関わる受給権者の基準においては、法律上の配偶者のみならず、いわゆる事実婚によるパートナーであっても要件を満たせばその適用を受けることができるようになっています。

 特に社会保障制度においては、実質的な夫婦関係や親子関係が重視されていることもあり、これらの実態に合わせて、より広範囲に保障が及ぶような枠組みとなっています。

 

 

PIONT3.事実婚の規定例

 慶弔休暇(結婚休暇)の対象に「事実婚」を明確に含めることとする場合、法律婚した従業員と同等の権利が付与されるようにするため、就業規則において、慶弔休暇の対象となる「結婚」について、たとえば、「事実婚」を「未届の妻または夫と世帯を同一にすること」と定義し、さらに「配偶者」を「婚姻または事実婚の相手方を指す」と定義するとともに、結婚休暇の付与日は、結婚した日(籍を入れた日、もしくは夫婦関係となった日)または式を挙げた日のいずれか早い日とし、法律上の夫婦と認められる入籍以外に、夫婦関係となった事実日も対象としているという例がみられます。

 起点となる日をどこにするか、どのような文言にするか等も会社の判断となりますので、例を参考に、会社が決めていただいて問題ございません。

 

 

PIONT4.「Q」の場合

 一般的に「結婚」を要件とする権利義務関係の発生は法律上の婚姻関係にあることが想定されています。

 しかしながら、会社制度においては、必ずしもそれに縛られる必要はありませんので、会社の判断により、事実婚でも慶弔休暇(結婚休暇)を認めることは可能です。

 昨今では、事実婚以外にも同性婚等様々なケースが想定されますし、その制度の趣旨等に照らし、事実婚に休暇を付与しないことに合理性がない場合には差別的取扱いと判断される可能性もあ得ると考えますので、労使のトラブルを未然に防止するためにも「結婚」の定義等について、会社に裁量で、自社の状況、同規模の会社の状況等、総合的に勘案し検討したうえで、就業規則に明確に規定しておくべきと考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

□労基法89条、

□健康保険法3条

□厚生年金保険3条