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■業務に取り組む意欲に欠け、業務成績も不良な従業員を解雇できるか

 業務に取り組む意欲に欠け、業務成績も不良な従業員について、これまで上司が何度も注意・指導をしてきたが、改善されない。

 そのため、当該従業員本人の意思で退職してもらえるよう、先日、退職勧奨を行ったが、それに応じる様子もない。

 当該従業員が他の社員に与える影響を考えて、当社としては、解雇したいが、このような理由から解雇することができるのだろうか。また、この他にとるべき対応はあるのだろうか。

 期間の定めのない労働契約の場合、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働契約法16条)。

 判例をみると、業務成績が著しく不良であって改善の見込みがない場合は解雇が有効と判断されています。

<POINT1.解雇には「合理的な理由」が必要>

 期間の定めのない労働契約の場合、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働契約法16条)。

 従って、解雇が有効となるためには、解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められることが必要、となります。

 今回の「Q」のケースの業務成績の不良が解雇の合理的な理由となるかについては、一律で判断することは不可能であり、それぞれ個別の事案により、業務成績の不良の程度等によって判断されます。

 

 

<PIONT2.解雇が無効とされた判例>

 業務成績の不良を理由とする解雇に関する判例で、解雇が無効とされたものには、次のものがあります。

  •  塗装の不良品がもっぱら労働者の作業態度によると認めるに足りる証拠はない等として、就業規則の「勤務成績または業務能率が著しく不良で、従業員としてふさわしくないと認められたとき」に該当するとは認められないから、それを理由とする本件解雇は、著しく不合理で社会通念上相当なものとして是認することができず、解雇権の濫用として無効というべきであるとするもの(弥生工芸事件[大阪地判H15.5.16]
  •  労働者の販売成績等には問題があることは否定できないものの、営業員として不適格であるというほどに劣悪な成績等であるとは認められないし、労働者の職場を奪うことを正当化するほどの社会的にみて相当な理由があるとまでは認められず、本件解雇は解雇権を濫用した無効な解雇と認めるのが相当であるとするもの(日本プララド事件[神戸地判H14.6.7]
  •  労働者について、会社の従業員としての適格性がなく、解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえないから、本件解雇は、解雇権の濫用であって無効であるとするもの(森下仁丹事件[大阪地判H14.3.22]
  •  当該労働者の服務規律違反は就業規則所定の解雇事由(適格性の欠如)に該当するが、解雇が労働者にもたらす結果の重大性に鑑み、その違反は当該部署への異動後の上司との関係等の労働環境に起因し、異動前はさしたる問題行動は見られなかったことにも照らせば、他の部署に配置転換して他の上司の下で稼働させることを検討すべきところ、配置転換の打診をこえる解雇回避の措置の検討など解雇回避努力が十分に尽くされたとはいえず、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、労働契約法第16条に抵触し、無効であるとするもの(地位確認等請求控訴事件[東京高判H30.1.25]

 

 

PIONT3.解雇が有効とされた判例

 他方、業務成績の不良を理由とする解雇に関する判例で、解雇が有効とされたものには、次のものがあります。

  •  労働者は、本件解雇当時、指導や助言によって勤務状況の改善を期待するのは困難な状況にあり、会社保険部の社員として必要とされる能力を有しておらず、勤務成績が著しく不良であって、また、従業員として会社の規律や上司の命令に従って業務を遂行しようとする意思を著しく欠いており、勤務態度が著しく不良であった等として、労働者は、本件解雇当時、勤務成績が著しく悪く、改善の見込みがなかったから、就業規則の解雇事由に該当するとし、本件解雇は、著しく不合理であり社会通念上相当な範囲を逸脱したものとは認められず、有効であるとするもの(テレビ朝日サービス事件[東京地判H14.5.14]
  •  会社における業務の円滑な遂行に支障をきたす程度に、労働者の勤務成績または業務能率が著しく不良であるといわざるを得ず、労働者の、会社の従業員としての適格性に問題があり、また、会社において、労働者の配置転換も検討したが、折からの会社の経営状況とも相まって、効果的な配置を行うこともできなかったとして、本件解雇は合理的なもので、社会通念に照らして著しく合理性を欠き、解雇権を濫用するものであるとはいえないとするもの(弥生工芸事件[大阪地決H14.2.20]
  •  労働者は、システムエンジニアとしての技術・能力を備えた技術者として会社に雇用されたのに、システムエンジニアとしての技術・能力はもとより、アプリケーションエンジニアとしての技術・能力も不足し、かつ、労働者の技術的水準を向上させるべく、会社において、現場指導、教育訓練等を続けたが、労働者の意欲が乏しかったため、その成果が上がらなかったこと、一方、出勤状況をはじめとする日常の勤務成績・態度は、組織の一員としての自覚を欠いた不良のもので、改善努力を求めても改まらなかったことを認めることができるから、本件解雇は少なくとも就業規則(勤務成績が不良で就業に適さないと会社が認めたとき)に該当するものということができるとして、解雇は有効であるとするもの(日本エマソン事件[東京地判H11.12.15]
  •  美容師の労働者には、会社の就業規則が定める「勤務成績または効率が著しく不良で就業に適さない」との解雇事由が存在することは明らかであって、段階的に労働者の処遇を図り、この間会社からは、度重なる注意・指導がされたにもかかわらず、結局、労働者には改善の意欲も成果もみられず、3か月間の最後のチャンスを自ら放棄したような勤務態度・勤務状況であったことに照らせば、本件解雇はまことにやむをえないものであって、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないとはいえないから、有効と認めるのが相当であるとするもの(トムの庭事件[東京地判H21.4.16]

 

 

PIONT4.業務成績不良の場合の対応

 このように業務成績が著しく不良であって、改善の見込みがない労働者に対する解雇は有効と認められる可能性がありますが、解雇にいたる前の段階で会社としてどう対応すべき・・・か。

 上記の判例からも読み取ることができますが、業務成績が不良な当該労働者に対する会社としての対応には次のようなことが考えられます。

  1. 勤務成績の向上または勤務態度の改善を図るための注意・警告・指導・教育・訓練・研修等
  2. 適材適所の観点からの配置(職種)転換
  3. 人事権の行使としての降格、賃金の見直し等
  4. 解雇以外の懲戒処分

 したがって、業務成績が著しく不良な労働者について、会社が解雇にいたらないように、こうした対応を尽くしてもなお改善されない場合には、解雇してもやむをえないものと考えられます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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≪参考となる法令・通達など≫

□労働契約法16条

 

≪参考となる判例≫

□日本エマソン事件[東京地判H11.12.15]

□弥生工芸事件[大阪地決H17.2.20]

□森下仁丹事件[大阪地判H14.3.22]

□テレビ朝日サービス事件[東京地判H14.5.14]

□日本プララド事件[神戸地判H14.6.7]

□弥生工芸事件[大阪地判H15.5.16]

□トムの庭事件[東京地判H21.4.16]

□地位確認等請求控訴事件[東京高判H30.1.25]