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■採用時にリファレンスチェックを活用する場合の留意点

 中途採用を行う場合などに前職調査を行っても、入社後のスキルや経験のギャップが大きいことが度々あるため、求職者の同意を得たうえで、新たにリファレンスチェックを導入したいと考えた場合、どのようなことに注意すればよいか。

 リファレンスチェックとは、「採用企業が求職者の同意の下、採用の過程で、求職者の勤務状況や人物などについて、前職または現職の関係者に問い合わせること」ですが、取得する情報は、採用プロセスにおける求職者の個人情報であることから、職業安定法や個人情報保護法の規制に適合しているかの検証が必要です。

 そのポイントは、

  1. ファレンスチェックにより情報を取得するにあたり、求職者の同意を得ていること
  2. 求職者に関する「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となる恐れのある事項(要配慮個人情報を含む。)」等に関する情報は、原則として収集できないこと

です。

 また、採用内定後に、リファレンスチェック拒否やリファレンスチェックの結果による内定取消しを行うことは、厳しい制約があることに留意する必要があります。

<POINT1.リファレンスチェックとは>

 リファレンスチェックとは、採用企業が求職者の同意の下、採用の過程で、求職者の勤務状況や人物などについて、前職または現職の上司、同僚等に問い合わせることであり、外資系企業では、リファレンスチェックを採用プロセスの一環として50%以上の企業で行っており、日系企業では実施企業は20%程度にとどまっていると言われており、日系企業への浸透はこれからという状況といった印象です。

 リファレンスチェックの実施により、求職者の人物像、能力等に間違いがないかの判断、面接で話した内容や応募書類に虚偽・誇張はないかの確認など採用可否の判断材料を集めることができます。また、求職者がリファレンスチェックの実施を拒否するなどの場合、必ずしもその求職者のネガティブな過去があるとは言えませんが、選考継続の是非を改めて検討することは、リスク回避となると考えられます。

 一方で、リファレンスチェックには、時間がかかり 選考プロセスの遅延につながりやすいこと、回答の信ぴょう性の判断が難しいといった問題点もあります

 

 

<POINT2.職業安定法および個人情報保護法の規制と対応>

 リファレンスチェックによる求職者の個人情報の収集・取得については、次の職業安定法や個人情報保護法に基づくルールを遵守する必要があります

  1. 求人企業は、採用目的の達成に必要な範囲内で求職者の個人情報を収集・保管・使用しなければならないこと。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではないこと(職安法5条の5第1項)。
  2. 求人企業が求職者の個人情報を収集する際には、本人から直接収集するか、本人の同意のもと第三者から収集する等、適法かつ公正な手段によらなければならないこと(平11.11.17労告141第4 1(2))。
  3. 求人企業が求職者の個人情報を取得する際には、利用目的を特定して取得する必要があるほか、特に「要配慮個人情報」(個人情報保護法2条3項)を取得するに際しては「あらかじめ本人の同意」を得なければならないこと(個人情報保護法17条1項、20条2項)。
  4. 求人企業は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと(平11.11.17労告141第4 1(1))。

ア.人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項

イ.思想および信条

ウ.労働組合への加入状況

 

 ①から③については、採用目的の達成に必要な範囲内で応募者の個人情報を収集・保管・使用することを前提として、求職者の「同意」を得ているかぎりこれらに抵触することはありません。

 その際、実務的には、求職者の「同意」は、口頭での確約等で済ますことなく、後々問題とならないように、必ず書面やメール等において記録を文書やデータとして残しておくことが重要と考えます。

 ④に掲げる情報については、そもそも収集すること自体が禁止されています

 

 

<POINT3.リファレンスチェック拒否やリファレンスチェックの結果による内定取消し>

 リファレンスチェックの実施にあたって、次に注意しなければならないのは、その拒否や結果による採用内定取消しです。

 採用内定通知を出した後は、「始期付解約権留保付労働契約」が締結されていると解されており、その取消しは、最高裁判例(大日本印刷事件[最判S54.7.20])により、社会通念上相当と是認することができるものに限られるとされ、簡単には認められません

 したがって、 採用内定後の内定取消しなどのトラブルを防止するためにも、リファレンスチェックは内定を出す前に行い、 経歴詐称などの問題がありそうな求職者やリファレンスチェックを拒否する求職者には安易に採用内定を出さないという運用を徹底することが必要であると考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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《参考となる法令・通達など》

□職安法5条の5第1項

□個人情報保護法17条1項、20条2項

□平11.11.17労告141第4 1(1)・(2)

◇大日本印刷事件[最判S54.7.20]