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■育児・介護休業後の配置について

 当社では、育児休業を予定している従業員がいる。

 育児休業・介護休業後の職場については、原則としてその従業員の元の職場に復帰させることとしているが、必ずそのようにできるとも限らない。

 育児・介護休業後は、必ず原職に配置しなければならないのか。

 育児休業・介護休業等育児又は家庭介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児・介護休業法」という。)は、育児・介護休業の申し出や育児・介護休業後の復職が円滑に行われるようにするため、労働者の配置等の雇用管理等について必要な措置を講ずるよう、事業主に対する努力義務を規定しています。

 これについて、育児・介護休業法に基づく「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」においては「育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること」とされています。

 もっとも、これは事業主の法的義務を定めたものではないので、休業者の原職復帰を認めるかどうかは、労使間で取り決めることになります。

 但し、復職後の処遇が不利益取扱いとして育児・介護休業法違反とならないよう、慎重に検討する必要があります。

<POINT1.配置の転換>

 一般に、就業規則において 「業務の都合により配置転換を命ずることがある」といった旨の規定がある場合には、事業主は、業務内容や就業場所などの変更を命じることができる権限があると考えられています。育児休業者および介護休業者といえどもその対象となります。

 しかし、この権限はどのような場合でも行使できる絶対的な権限というわけではありません。様々な事情を総合的に判断し、合理的と考えられる範囲内で配置転換を命ずることでできると考えなければなりません。育児休業や介護休業をしたことに対するいやがらせ的な配転などの不利益な取扱いが認められないのはいうまでもありません。

 

 

<POINT2.復職後の配慮>

 休業者は、休業終了後仕事に戻ることを考えると、自分の席はあるのか、元どおり仕事はできるのか、いろいろと不安を抱えていると考えられます。

 そこで、育児・介護休業法第22条では、育児休業および介護休業の申し出や育児休業および介護休業後の再就業が円滑に行われるようにするため、事業主は、育児休業にかかる研修の実施などの雇用環境の整備や労働者の配置などの雇用管理などについて必要な措置を講ずるよう努めなければならないと定めています。

 復職後の配置があいまいであったり、不当な取扱いを受けることがあったりして、育児休業または介護休業の権利行使が妨げられるようではいけません。休業者の復職後の不安を取り除き、安心して休業をした後、円滑に職場復帰できるようにするための措置や配慮が必要となります。

 

 

<POINT3.原職復帰への努力義務>

 原職復帰は法的義務ではないので、具体的には労使間で取り決めることとなりますが、厚生労働大臣が育児・介護休業法に基づき定めた「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号。以下、「指針」という。)においては、「育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること」と定めています。

 これは原職復帰を強制するものではありませんが、できれば原職あるいは相当職への復帰を心がけることを示唆したものと考えられます。

 なお、裁判例においては、育児介護休業法第22条と上記「指針」については、努力義務の内容を具体的に示したもの(指針)であって、 原職または原職相当職に復帰させなければ直ちに法違反となるものではない旨判示しています(コナミデジタルエンタテインメント事件[東京地判H23.3.17])。ただし、同判決は、大幅な報酬の減額を伴う担務変更は使用者の一方的行為によって行うことは許されない旨結論していること。)

 一方、休業者本人も仕事を熟知していますし、職場環境にも慣れているので、とけ込みやすいと考えます。休業者の能力や経験を活用するためにも、育児介護休業後の職場復帰を見据えて、休業期間中の能力開発の維持・向上の措置を講ずるとともに、休業後は原職に復帰させるのが、企業の生産性の観点からももっとも有効であると考えられます。

 さらに、前述の指針では、その他の労働者の配置その他の雇用管理についても、このような考え方を前提に行われる必要があることに配慮することとしています。

 

 

<POINT4.就業規則における規定>

 以上のように、育児休業または介護休業後は原職へ復帰させるのが、労使双方にとって合理的です。しかし、現実として、個別の会社にとっても休業中にどのような事情の変化が起こるかわかりません。就業規則で定めるときは、原職復帰はあくまでも原則とし、仕事の実状や本人の事情などを勘案して、ある程度弾力的に対応できるように規定しておいた方が良いと考えます。

 ちなみに、前掲の裁判例においては、人事権の行使は使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事項であり、労働者に周知された就業規則の規定に基づき行われる職種・職位の変更につき労働者本人の同意を要するものとは解されない旨判示しています。

 なお、育児・介護休業法により、事業主は、配置に関する事項について予め定めて労働者に周知させる措置を講じ、休業申し出後は、書面による明示をするよう努力義務が課されています。

 

 

<POINT5.復職にあたって留意すべき点>

 復職についての雇用管理上の基本的な考え方は以上のとおりですが、育児・介護休業法第10条の関係に留意する必要があります。

 同条は、育児休業の申し出や育児休業をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨規定し、これを受け、指針の第2の11の(1)では、この不利益な取扱いとは、育児休業の申し出・取得との間に「因果関係がある」行為であることを示すとともに、続く(2)において、それらの例として、解雇、減給、昇進・昇格の人事考課での不利益な評価など11例があげられ、さらに(3)において不利益取扱いに該当するか否かの判断の際の勘案すべき事項が示されています。

 ここにいう「因果関係がある」とは、行政解釈では、育児休業の申し出または取得をしたことを「契機として」不利益取扱いが行われた場合は、原則として育児休業の申し出·取得を理由として不利益取扱いがなされたと解されるとされていますが、

  1. 円滑な業務運営、人員の適正配置などの業務上の必要性からの支障があり、その必要性の内容や程度が育児・介護休業法第10条の趣旨に反しないと認められる特段の事情の存在が認められる場合
  2. その労働者がその取扱いに同意し、不利益取扱いで受ける有利な影響が不利な影響の内容 程度を上回るなど、一般的な労働者であればその取扱いにつき同意するような合理的理由が客観的に存在すると認められる場合

 はこのかぎりでない旨示されています(平27.3.27雇児発0123第1)

 また「契機として」については、基本的にそれらの申し出・取得の事由の終了から1年以内を原則として、その不利益取扱いが行われたか否かをもって判断する旨が示されています(平27.3.27雇児雇発0327第1・雇児職発0327第2)

 このように、復職させるにあたっては、必ずしも原職復帰までは求められていませんが、育児・介護休業法の第10条にいう不利益な取扱いに該当し法違反とならないよう、そのポスト、処遇等については慎重に検討しなければなりません

 最後に、育児・介護休業法第10条に関わる裁判例(ジャパンビジネスラボ事件[東京高判R1.11.28])を紹介しておきます。同判決は、育児休業前の正社員という雇用形態から契約社員への変更について、詳細に事実認定をしたうえで、その変更はその労働者の自由な意思に基づいたものと認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するといえるので、この合意は、育児・介護休業法第10条などに規定された不利益な取扱いにはあたらない旨判示しています。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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≪参考となる法令・通達等≫

□育児・介護休業法10条、21条の2、22条

□育児・介護休業則73条

□平21.12.28厚労告509

□平14.3.18職発0318009雇児発0318003

□平18.10.11雇児発1011002

 

≪参考となる判例≫

□コナミデジタルエンタテインメント事件[東京地判H23.3.17]

□ジャパンビジネスラボ事件[東京高判R1.11.28]