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■事前に届出の無い年次有給休暇は認めなくても問題ないか

 就業規則に、年次有給休暇の届出は、休暇を取りたい日の2日前までに行われなければならないと規定してあっても、従業員の中には、当日になって電話で年休を申請する者がいる。

 その場合、病気や事故など事前に届出ができないケースに限り、年休取得を認めているが、休む理由によって取得が認められないケースが出てくるのは法的に問題ないか。

 年次有給休暇は、労働者がその取得時季を自由に指定できることとされている。

 これに対して使用者には、有給休暇の取得が正常な業務の運営に支障がある場合などに、その取得時季を変更する権利がある。

 一般的に有給休暇の取得は日を単位とするので、労働者は休暇の初日の前日までに取得時季を指定すべきであり、このことが就業規則などで明記されているかぎり、取得を認めないことについて法的に問題があるとはいえないと考えます。

 これは、労使協定で年次有給休暇を時間単位で与える定めをした場合においても同様の取扱いとなります。

 つまり、使用者の時季変更権が1日単位の年次有給休暇と同様に適用されることから、正常な業務の運営に支障がある場合にはその取得時季を変更する権利があるからです。

 とはいえ、1日単位の年次有給休暇と比較して、正常な業務の運営に支障がある場合は限定的であるため、特別な場合を除いては1日単位の年次有給休暇の事前届出期限 (休業の初日の2日前までに申請すること)に対して、休業日の前日までに申請する等、就業規則に規定する際には、ある程度の配慮が必要とも考えます。

 当然に届出ができないケースに限り、事後の取得申請を認めることについては問題ないと考えます。

<POINT1.有給休暇の時季指定権>

 年次有給休暇は、労働者がその取得時季を指定できることとされています。

 一方、使用者には、取得時季の変更権が認められています

 したがって、当日に取得の申出があっても、時季変更権の行使は時間的に不可能となってしまいます。このことからも、労働者は年次有給休暇の取得について休業の初日の前日までには指定することが求められるものといえます。

 想定ケース(Q)のように、就業規則などで休業の初日の2日前までに申請することが明記されていれば、このような制限も有効とされる余地はあります。

 したがって、2日前までに取得時季の指定がなかった有給休暇については、その取得を認めないことがただちに問題とはならないと考えます。

 

 

<PIONT2.時季指定についてのやむを得ない事情>

 年次有給休暇の取得について、 急な病気や事故などのように事前に申請することが不可能な場合もあります。

 これらやむを得ない事情については、事後に申請すれば有給休暇の取得を認める会社が多いです。これらの対応についても就業規則などに明記しておき、同様の事情で対応が異ならないようにしておくことが必要と考えます。

 

 

<PIONT3.年次有給休暇の時間単位付与と時季変更権>

 さらに労働基準法では、労使協定による時間単位の年次有給休暇においても、使用者の時季変更権を認めていますが、労働者が時間単位で請求した場合に日単位に変更することや、日単位で請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更に当たらず、認められないものとなります。

 また、時季変更権が行使できる事業の正常な運営を妨げるか否かについては、労働者からの具体的な請求について個別的、具体的かつ客観的に判断されるべきものとされ、予め労使協定において、時間単位年休を取得することができない時間帯を定めること、所定労働時間の途中で取得することを制限すること、1日に取得できる時間数を制限すること等を定めることは認められないものとされています。

 

<POINT4.労働基準法コンメンタールによると・・・>

 労働者が年次有給休暇の時季を指定する時期について法律上は定めていないが、使用者が時季変更権を行使する時間的余裕を置いてなされるべきことは、事柄の性質上当然であるとする裁判例(大阪地裁判 昭46年(ワ)第318号、此花電報電話局事件S5.3.24)があり、妥当であろう、と。

 同事件の控訴審判決は、労働協約で職員の勤務割の変更は前々日の勤務終了時までに関係職員に通知することとされていた場合において、年次休暇の時季指定を原則として前々日までとする就業規則の定めは、時季変更権の行使についての判断の時間的余裕を与え、代替要員の確保を容易にし、時季変更権の行使をなるべく不要ならしめようとする配慮に出たものであり、合理的なものとして、本条に違反するものでなく、有効であるとした(大阪高裁判決 昭51年(ネ)第654号、昭53.1.31)、とあり、故にいたずらに早い時期に申し出ることを義務とする旨規定しても無効と判断されると考えられますが、事前に申し出ることを義務付けた場合のそのタイミングについて根拠があれば問題ないと考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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《参考となる法令・通達など》

□労基法39条

□昭63.3.14基発150

□平21.5.29基発0529001