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■特定業務の拒否を目的とする年次有給休暇の取得は権利の濫用に当たるか

 生活様式の変化に伴い深夜業務の需要の増加に応えるため、平日の午後7時から翌日午前4時まで稼働時間を延長したのだが、通常の業務とは稼働時間帯や勤務内容が異なることから、多数の従業員から嫌悪され、その結果、深夜業務を避けるために年次有給休暇を取得する従業員が出てきてしまった。

 これを権利の濫用と考え、それを拒否するか、あるいは欠勤扱いとしたいが、問題ないか。

 過去に、タクシー会社が、タクシー乗務員がナイト乗務(深夜乗務)を拒否する目的でする年次有給休暇申請に対応するため、タクシー乗務員によるナイト乗務指定日の休暇指定について、ナイト乗務の拒否と認めて欠勤処理をした事案について、「本件休暇指定はナイト乗務を拒否する目的のもとにされたことは明らかであり、時季指定権の行使は、いずれも権利の濫用であるというべきであり、無効である」とした東京高裁の判例があり、同様に認められる可能性はあると考えられます。

<POINT1.年次有給休暇の時季指定権に関する判例>

 年次有給休暇の時季指定権とは、労働者が年次有給休暇を取得する時季を決められる権利のことをいいます。

 使用者は、基本的には労働者が時季指定権を行使した日に、労働者に年次有給休暇を付与しなければなりません。

 ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることで、事業の正常な運営を妨げる場合は、時季の変更をすることができる(時季変更権)とされております。

 Q.の事案に関連して、こうした年次有給休暇の労働者の時季指定権の行使について、労働者の権利の濫用であり無効であるとした、 東京高裁の判例(日本交通事件[東京高判H14.4.20])があり、これに示されている考え方を参考までに紹介します。

 

 

<PIONT2.時季指定権にも権利濫用の法理が適用>

 この判例では、「権利濫用の法理は、一般法理であるから、その適用される分野は何ら限定されるものではないと解されるのであって」、「時季指定権についても、これが社会観念上正当とされる範囲を逸脱して行使され、権利の行使として是認することができない場合があり得るのであって、そのような権利の行使が権利の濫用として無効とされることを妨げるべき理由は見いだせない」から、年次有給休暇の「時季指定権についても、権利濫用の法理の適用があると解するのが相当である。」としています。

 

 

<PIONT3.特定時季についての年次有給休暇権行使>

 さらに、判例では「特定日・特定時季(たとえば月曜日あるいは正月など)に年次休暇をとりたいというのは、その特定の日ないし時季に意味があるのであって、当該日ないし時季に就くべき業務が重要なのではない。すなわち、決して、特定の業務に着目し、これを嫌悪し、その業務への就労を拒否しようとしているのではない。ところが、本件のナイト乗務指定日についての時季指定は、これとは異なり、その特定の日ないし時季に意味があるのではなく、まさしく当該指定日における業務に就くことを拒否することを目的とするものであるから、これらを同視する控訴人ら(労働者)の主張が失当であることは明らかである」としています。

 

 

<PIONT4.年次有給休暇の自由利用の原則との関係>

 また、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である。しかし、これは、有効な時季指定権の行使がされた場合にいい得ることであって、時季指定権の行使が、権利の濫用として無効とされるときには、年次休暇の自由利用の原則が問題とされる余地はない」としたうえで、「本件休暇指定がナイト乗務を拒否する目的のもとにされたことは明らかである」、「時季指定権の行使は、いずれも権利の濫用であるというべきであり、無効である」と判断しています。

 つまり、年次有給休暇の時季指定権の行使が、特定の勤務を拒否することを目的とするような権利の濫用と認められれば、無効であり、 それを認めず、欠勤扱いとしても問題はないことになります。

 

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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《参考となる法令・通達など》

□労基法39条

□日本交通事件[東京高判H14.4.20]