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■採用時と在籍従業員に反社会的勢力との関係の有無を調査する場合の留意点

 すべての都道府県で暴力団排除条例が施行され、会社では、今後、企業の社会的責任を果たすため、暴力団等の反社会的勢力との関係遮断を徹底しようと考え、今後、従業員を採用する際に、応募者が暴力団等の関係者かどうかを調べる制度をもうけるとともに、現在在籍している従業員についても暴力団等反社会的勢力の関係者でないことを調べたい場合に、問題はないか?

 平成23(2011)年10月に、東京都の暴力団排除条例が施行され、これによりすべての都道府県で暴力団排除条例が施行され、暴力団排除の動きが広がる中で、近年、企業でも反社会的勢力を排除するところが増えています。

 実際に、従業員が暴力団等反社会的勢力の関係者であることが発覚した場合、企業の社会的信用を失う可能もあります。

 したがって企業防衛のため、応募者や在籍している従業員に対して、反社会的勢力と関係がないことを確認、調査することに問題はないと考えます。

 ただし、調査にあたっては、個人情報保護の観点から反社会的勢力と関係がないことのみを確認するようにするこ避けるとが大切と考えます。

<POINT1.反社会的勢力とは何か>

 まず、 反社会的勢力とは何かについて確認します。

 政府がとりまとめた『「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)』によると、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」とされています。

 また、同指針では、反社会的勢力をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋等の属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任をこえた不当な要求といった行為にも着目することが重要であるとしています。

 こうした中で、昨今、著名人と暴力団等反社会的勢力の関係が問題になっており、暴力団排除の動きが広がっておりますが、企業がその社会的責任を果たすために反社会的勢力との関係を根絶することは、いよいよ重要な課題となっていると考えます。

 

 

<POINT2.昨今の暴力団等の反社会的勢力排除の流れ>

 東京都と沖縄県で平成23年10月1日より暴力団排除条例が施行されました(最初に暴力団排除条例を施行したのは福岡県。施行日は平成22年4月1日)が、これにより、暴力団排除条例がすべての都道府県で実施されることとなりました。

 そこで、東京都暴力団排除条例を例に見てみると、条例では、暴力団排除に向けての都民等(事業者を含む。)の役割や事業者の暴力団関係者に対する利益供与の禁止などの規定が盛り込まれ、違反者に対しては、罰則の適用もあります

 このような暴力団排除の動きにともない、企業にも、一定の役割や責務が課せられており、無視はできません。

 そこで、次に、採用時と在籍従業員の調査に関して考えてみます。

 

 

<POINT3.採用時の応募者への調査について>

 まず、採用時の応募者に対する調査について考えてみます。

 職業安定法は、従業員の募集を行う者はその業務に関し、求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集をし、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない(同法5条の)と定めています。

 つまり、採用選考に直接必要な範囲にかぎって応募者の個人情報を収集すべきものとしております。

 ここで 「個人情報」とは、

  1. 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地 その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
  2. 思想および信条
  3. 労働組合への加入状況をいうこと

とされています(平11.11.17労告141第4)が、このように、採用選考時には、採否判断に直接必要のない情報は求めるべきでないとされています。

 しかし、従業員が、反社会的勢力に所属していたり、関係があることが発覚した場合、企業の社会的信用や企業秩序に大きなマイナスが出る可能性もあるので、反社会的勢力の関係者かどうかの情報は、その応募者の採否を決めるにあたっての必要な情報といえると考えます。

 従って、採用時に、応募者が暴力団等反社会的勢力と関係がないことを確認することは自然なことであり、法的にも特段問題がないと考えます。

 ただし、個人情報保護の関係から調査、確認の方法としては、予め利用目的を明示するとともに、あくまで反社会的勢力に関係がない旨誓約書を提出させる等の方法によることとし、不要な個人情報の収集にまでは立ち入らないようにする必要があると考えます。

 

<POINT4.在籍従業員への調査について>

 次に、すでに採用されている在籍従業員に対して、これらの調査をする場合について考えます。

 採用時と同様、反社会的勢力と関係をもたない旨の誓約書を提出させるなどの方法により確認するようにし、不要な個人情報の収集は避けるようにすべきと考えます。

 また、もし、その誓約書に違反した場合には、違反の程度に応じて懲戒処分をする旨、就業規則に定めるようにすることによって、この誓約書の実効性を担保するようにするとよいと考えます。

 ただし、たまたま家族・親戚や古い友人の中に反社会的勢力の関係者がいた場合に、積極的な交際をしないとか、反社会勢力に利益の供与をしないなどの誓約を求めるようにし、関係が薄いものについて処分することは適切ではないと考えます。

 昨今の暴力団排除の流れや、従業員が反社会的勢力に所属していることが判明した場合の企業の社会的信用の低下や、企業秩序維持の面からみても、以上のことを前提に上記のような方法でなら、在籍従業員に対して調査を行うことも特段問題はないと考えます。

 

 

 個人情報保護規程は、2022.08の『WORK』よりダウンロードいただいたものを、自社に合うようにカスタマイズしてご利用ください。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

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《参考となる法令・通達など》

□職業安定法5条の5

□平11.11.17労告141

□東京都暴力団排除条例