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■ジョブ型雇用で採用する場合の留意点

 ジョブ型雇用で採用する場合の留意点とは?

 これまで、日本では、担当職務を限定せず、組織の一員(メンバー)として採用し、ジョブローテーションを繰り返しながら、ゼネラリストとしての活躍を促す人事管理制度である「メンバーシップ型雇用」が中心でしたが、経済のグローバル化や、 雇用形態が職務限定や勤務地限定であるもの、勤務形態がテレワーク、裁量労働であるものなど働き方の多様化が進む中で、担当職務(ジョブ)を明確に定めたうえで採用し、スペシャリストとしての活躍を促す人事管理制度である「ジョブ型雇用」 が注目されている、と言われております。

 この「ジョブ型雇用」における処遇のしくみは、メンバーシップ型雇用における従業員の職務遂行能力に基づく職能給(職能資格制度)ではなく、それぞれの職務の市場賃金に連動した職務給(職務等級制度)、つまり、職務内容・成果によって報酬等の処遇が決まる、とされております。

 コロナ禍によって、より浸透し始めたテレワークでは、従業員一人一人の業務状況の把握が困難になるため、仕事の成果に基づく処遇への転換が求められます。そのため、職務・職責を明確にしたジョブ型の人事管理制度が適している面があるとも言える、と考えます。

 一方で、現代において雇用の維持を是が非でも優先されてしまう日本に於いて、会社の状況や経済状況等によりその職務の存在がなくなった場合であっても配置転換を求められることが十分に考えられるので、今後の雇用契約に対する考え方の変化についても併せて注視する必要があると考えます。

<POINT1.ジョブ型雇用とは>

  ジョブ型雇用とは、職務記述書(ジョブディスクリプション)の下で、職務内容、責任の範囲、必要なスキル、勤務時間、勤務場所などを明確に定めたうえで採用し、報酬は職務の成果に対して支払われるものです。

 日本では、これまではメンバーシップ型雇用が主流でしたが、2020年1月に経団連の提言において、ジョブ型雇用の導入が推奨されたことをきっかけとして、大企業では、これまでの雇用慣行を見直して活性化させたいとしてジョブ型雇用が広がっています。このジョブ型雇用は、欧米では古くからある標準的な雇用制度です。

 また、労働契約としては、職務内容を明確にした職種を限定したものとなります。

 

<PIONT2.ジョブ型雇用のメリットとデメリット>

 ジョブ型雇用のメリットとしては、

  1. 特定の職務にあった専門分野に強い人材を採用でき、専門分野のスペシャリストを育成できる
  2. 従業員は職務以外の業務負担が軽くなり、職務に集中できるため、専門性を高めることができる
  3. 職務範囲や責任が明確になることで、不要な業務が明確になり、業務が効率化されること、従業員の専門性の高まり等から業務品質、生産性の向上につながりやすい
  4. 業務状況の把握・管理が困難なテレワーク等にも適している面がある

などが考えられます。

 

一方、デメリットとしては、

  1. 職務等が限定されているため、配置転換、や転勤、柔軟な職務の追加が困難であること、逆に、従業員は担当職務がなくなれば、解雇されることもありうる
  2. 従業員は、ゼネラリストとしてのスキル育成が困難となる
  3. 日本では、職務によっては人材の獲得が困難な面がある
  4. 会社への帰属意識が低くなりやすく、チームワークの醸成も困難である

などが考えられます。

 

<POINT3.ジョブ型雇用の導入にあたっての留意事項>

(1)職務内容等の明確化と適正な目標設定

 ジョブ型雇用を行う場合、報酬は、職務の成果に対して支払われるため、職務ごとの職務内容等を明確に示すとともに適切な目標設定をする必要があります。

 日本企業では、これまでメンバーシップ雇用であったため、職務ごとの職務内容が明確に示されず、設定される目標も曖昧で抽象的な場合が多く、職務ごとに成果を中心に据えた目標管理を行う基盤が整っているとはいえません。

 ジョブ型雇用を採用する欧米の企業では、対象となる職務の洗い出しを行い、職務内容、責任の範囲、必要な能力・経験等を明確にし、職務記述書として取りまとめていますが、このような職務記述書を整備することで、従業員の職務内容・職責等を踏まえた適正な目標設定と管理が可能となると考えます。

(2)賃金体系・評価制度

 ジョブ型雇用での賃金体系は、年功序列型の職能給(職能資格制度)ではなく、成果に見合った職務給(職務等級制度)であることが重要で、職種や責任範囲などを見極めて設定する必要があります。なお、賃金額を設定する際は、市場価値に見合った報酬であることが必要であり、他社より劣っている水準である場合、従業員に条件の良い企業に転職されてしまう危険性があります。

 また、評価制度は、ジョブ型雇用においては、職務の能力に応じて報酬を支払うシステムであるため、ジョブ型雇用の従業員がスキルを発揮しやすく、スキルアップしていけるよう、前記の職務記述書等により成果に対して定量的に細かく基準を設定した評価制度とする必要があると考えます。

(3)ジョブ型雇用における配置転換・転勤

 ジョブ型雇用は、職務内容を限定した労働契約となるので、職務内容の変更を伴う配置転換については、会社から一方的に命じることは原則できないと考えます。当該従業員に対して、労働契約の変更を申し出、同意を得る必要があると考えます。

 これに関連して、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」で2022(令和4)年3月に報告書がとりまとめられており、その報告書では、職務・勤務地または労働時間を限定した多様な正社員については、労使双方が望ましい形で普及・促進が必要であるとし、労働者全般について、労働基準法第15条の労働条件明示の対象に就業場所・業務の変更範囲を追加することが適当であること、 労働条件が変更された際には、変更内容を書面で明示することとされており、今後、法制化等が検討されることとなっています。

 

<POINT4.まとめ>

 ジョブ型雇用制度は、年功序列や勤続年数に比例した評価制度ではなく、担当する職務や遂行状況に対する評価制度をベースにしています。

 このため、技能や知識の高い人材を確保しやすくなりますし、テレワークといった柔軟な働き方とも適合している、と考えられます。

 一方で、 ジョブ型雇用制度を導入するには、職務記述書で職務の内容等を明確にしなければなりませんし、「評価の透明性や正当性」を担保する必要があります

 また、当該職務がなくなったからといって、会社都合で一方的な配置転換もできません。

 これらのことを踏まえつつ、ジョブ型雇用の導入にあたっては、社内の現状を整理・分析し、導入可能な職種を見極めて導入する等、慎重かつ丁寧に取組みを進めていく必要があると考えます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※

<出典:厚生労働省(多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書(概要)>

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《参考となる法令・通達など》

  • 労基法15条
  • 多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書 (令和4年3月30日)

 

<厚生労働省:多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書>

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24904.html