<天音>
従業員から、本人の作成した出退勤記録にもとづき未払残業代請求訴訟を起こされている場合を想定します。
従業員からタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の開示を請求されているが、会社としては適正な残業代を支払っているので、このような要求に応じる必要はないと考えている。
要求に応じない場合はなにか罰則等があるのか?
<神谷>
ご相談の訴訟における労働時間の立証責任は、原則従業員側にあると考えられますが、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の開示を拒否することにより、違法性(不法行為)を問われたり、従業員側の主張が認められ必要以上の時間外手当等を支払う義務が生じるようなリスクが考えられます。
適正な労働時間管理にもとづくタイムカード、ICカード、 パソコンの使用時間の記録等があるのであれば、むしろそれらの開示を行い、時間外手当を適正に支払っていることを示していくことによって、早期かつ適切な解決を図ることができるものと考えられます。
<POINT1.労働時間の記録と保存>
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20基発0120第3)により、会社は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。
また、タイムカード等の労働時間の記録に関する書類は5年間(当分の間は3年間)保存しなければなりません。
<PIONT2.労働時間の立証責任>
民事訴訟において、従業員側が自ら作成した出退勤記録を証拠とするためには、その出退勤記録にもとづいた未払残業代の根拠となる労働時間が存在していたことを立証する責任が従業員側に生じることになります。
ところが、従業員側がその証明をするために必要となるタイムカード等の証拠類は会社側にあるので、会社側がその開示を拒否すれば従業員側は証明する術がなくなるといった事態が起こります。
<PIONT3.タイムカード等の開示>
こういった不公平を是正するための例外的な取扱いについて、次の裁判例(要旨)1、2では、特段の事情または合理的な理由がないかぎり、タイムカード等を開示すべきものとしています。
- その開示要求が濫用にあたると認められるなど特段の事情のないかぎり、タイムカード等を開示すべき義務を負う。特段の事情なくタイムカード等の開示を拒否したときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成する(医療法人大生会事件[大阪地判H22.7.15])。
- 合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算出することが許される場合もある(スタジオツインク事件[東京地判H23.10.25])。
<POINT4.ご質問の場合>
ご相談の民事訴訟における労働時間の立証責任は原則従業員側にあると考えられますが、タイムカード等の開示を拒否することにより、違法性を問われたり、従業員側の主張が認められ必要以上の時間外手当等を支払う義務が生じるようなリスクが考えられます。
適正な労働時間管理にもとづくタイムカード等の記録があるのであれば、むしろタイムカード等の開示を行い、適正に把握した労働時間にもとづく時間外手当を適正に支払っていることを示していくことによって、早期かつ適切な解決を図ることができるものと考えます。
※お客様に生じた事案ではありません※
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
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≪参考となる法令・通達など≫
□労基法109条、
□労基法附則143条
□平29.1.20基発0120第3
□医療法人大生会事件[大阪地判H22.7.15]
□スタジオツインク事件[東京地判H23.10.25]