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■勤務態度を理由に本採用拒否できるか

 当社では、新規に採用した従業員は、半年間の試用期間を経て本採用するかどうかを判断することとしている。

 先日、今年4月1日に採用したA氏の試用期間が来月末日で終了するので、配属されている部署の上司に職場での様子を聞いたところ、作業上のミスが多い、自己主張が強く協調性に欠けるなど、あまり芳しくないとのこと。

 これでは、会社にとってA氏を採用する意味がないので、試用期間が終了したら本採用を拒否するつもりだが、このような理由で拒否できるか。

 試用期間は雇用契約の解約権を留保している期間です。

 しかし、解約権を行使する(本採用しないとする)には客観的合理的な理由が必要であって、それも社会通念上相当と認められる場合であることが必要(認められるのであれば、解約可)です。

POINT1.個別の事情による判断

 試用期間中の雇用関係については、最高裁判決(三菱樹脂事件[最判S48.12.12])によって、何らかの事情があれば解約することができるという条件(解約権留保)付の雇用契約であり、本採用しないことはこの解約権の行使であるとされています。

 そして試用期間とは、「雇用した労働者の職業能力を試し、その職業的適格性を判定するために設けられたもの」であるとして、「通常の場合の解雇に比べてより広い範囲においてその自由が認められている」としながら、「使用者の裁量・判断によって自由に解雇することができるわけではもちろんない」としたうえ、この解約権の行使には、「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上も相当として是認される場合にのみ認められる」としています。

 換言すれば、試用期間中の解雇にもそれ相応の理由が必要ということになり、解約権を行使したこと(本採用としなかったこと)が、法律上、有効か無効かは、それぞれの個別の事情によって異なってくることとなります。

 ご相談の内容からは、①仕事上のミスが多い、②自己主張が強い、③協調性に欠けるとしか判りません。また御社の営業内容等も判然としません(会社の営業内容によっては、本採用しないことが法律上問題ない場合もあれば、その逆もあり得ます。)ので確定的なことは申し上げられません。

 しかし、次に掲げる判例の傾向、特に本採用しなかったことが無効とされた例に照らしてみますと、ご質問の程度のことでは、本採用としないことには問題が多いと考えられます。

 また逆に、本採用しなかったことが有効とされた例は、当該労働者がかなりの程度個性的であり、上司に反抗的態度をとったり、全く反省の色が見えなかったり、同僚との関係も相当程度に悪くしていたり、あるいは顧客との関係まで悪化させてしまっているのが特徴的といえます。

 それではどのような場合に、客観的合理的な理由があると認められたか、また社会通念上相当と認められたかについて、実際の判例にあたってみることとします。

 

 

POINT2.本採用の拒否が無効とされた例

①ニッセイ電気事件[東京高判S50.3.27]

 試用期間中の設計社員を、ドルショックによる企業防衛の見地から会社の経営方針を根本的に変えざるを得なかったとして、本採用を拒否したもの

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 本採用を拒否しなければ事業経営上困難を生じる事態にあったとは認められないとした。

 

②小太郎漢方製薬事件[大阪地決S52.6.27]

 2か月の試用期間中の人事課員に、合計額の計算誤り、指示された金種計算を怠った、給与袋詰め誤り、給与合計額の訂正を怠った、株主名簿上に誤字が多く判読しにくい書体があった、経歴を詐称した等があったとして本採用を拒否したもの

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 指示した側にも責任がある些細なミスか、些細とはいえないミスだが極度の緊張の下での間違い、この程度の字の癖や誤字を責めるのは酷であるほか、経歴詐称が解雇理由になったものでもないとして、本採用しなかったことに社会通念上相当と認められる客観的合理的な理由はないとした(地位保全・金員支払仮処分申請)。

 

③新光美術(本採用拒否)事件[大阪地判H12.8.18]

 組合事務所があった社有地の売却を妨害した、経歴を虚偽申告した、誓約保証書を提出しなかった、業務上の指示命令に反した等として試用期間中の営業職員を本採用しなかったもの

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 営業職として誠実に職務を遂行しており、一方、上司が幾度も組合加入の有無を尋ねていたことからすれば、本採用しなかったことには合理的な理由がない。

 

④テーダブルジェー事件[東京地判H13.2.27]

 来社した親会社の会長に起立挨拶はしたが、声を出さなかったとして6か月の試用期間中の幹部従業員候補生が、本採用されなかったもの

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 挨拶に際して声を出さなかった事を理由とするものであり、社会通念上相当とは認められない。

 

⑤ケイズ事件[大阪地判H16.3.11]

 配偶者が同業他社に勤務し、技術・ノウハウが漏れるおそれがあること及び会社の求める習熟度に達していないことを理由とする試用期間中の解雇につき、この技術等は法的保護の対象となる性質のものではなく、また、入社3週間程度経過の原告が技術等を配偶者に教えていたとも考え難く、さらに、3か月間の試用期間の趣旨からすると、この期間に必要な指導によって原告の習熟度を上げていくことが求められるなどとして、本件解雇は留保解約権の正当な行使とはいえないとした。

 

 

POINT3.本採用の拒否が有効とされた例

①ユオ時計事件[仙台地判S53.3.27]

 所長の指示·命令を無視、 乱暴な言動による接客、同僚との協調性の欠如、所長の注意にも耳を貸さない性格・態度、これらに起因する顧客からの取引停止等。

 

②鶴屋商事事件[東京地判S60.7.17]

 研修内容や上司の指示・指導を無視した自己流の営業活動を展開したこと、上司の注意に反発したこと、接客態度が不良であったこと、営業成績が不振であったこと、先輩や同僚に対する言葉遣いや態度も悪くミーティング時に他の社員と口論するなど社内の融和を欠いていたことなどを理由として3か月の試用期間中の営業社員見習いを解雇予告後、さらに即時解雇通告したもの(雇用関係存在確認等請求)。

 

③雅叙園観光事件[東京地判S60.11.20]

 3か月間の試用期間中の総務係員が、経験者として中途採用されたが、仕事が遅くミスも多く、自分勝手な判断で仕事を進め、挨拶もせず同僚を軽蔑するような態度をとるなど協調性がなく、上同の注意・指示に従わず、反抗的態度をとったりしたこと等を理由として、試用期間を2度延長した後に本採用を拒否されたもの。なお、2度目の試用期間の延長が適切ではないとして、本採用を拒否した場合としてではなく、正社員を解雇した場合と同様の判断枠組みで判断されたが、それでも解雇権の濫用には当たらないとした(地位確認等請求)。

 

④日和崎石油事件[大阪地決H2.1.22]

 試用期間中のスタンドサービスマンが、給油中に歌を歌って注意されても改めず、接客でも顰蹙を買い、店長の注意を最後まで開かずに逆に2時間も抗議するなどしたとして本採用を拒否されたもの。

 

⑤太陽鉄工事件[東京地判H4.2.21]

 試用期間中の営業担当従業員が、顧客からの苦情が絶えず、上司の指示・指導に従わず、顧客との関係系改善もできず、所員との融和も図れず、配置換えの内示翌日から出社しなかったとして本採用を拒否されたもの。

 

⑥フジスタッフ事件[東京地判H18.1.27]

 派遣労働者に対して、派遣元会社が留保解約権を行使し同人を解雇したことにつき、同人は社会人としての常識的な対応に欠ける自己中心的な言動が顕著であるといわざるをえないなどとして、同解雇には合理性が認められ有効であるとした。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。