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■始業時間前および終業時間後の事業場への移動等に要した時間は労働時間に含まれるか?

 始業時間前の更衣所での制服の着用や事業場への移動、また、終業時間後の更衣所への移動と通勤服の着用などは勤務上必要な行為だが、これらの行為に要する時間は労働時間に含まれるのか。

 更衣室における制服の着脱に要する時間および事業場と更衣室との間の移動に要する時間については、制服の着用が義務付けられている場合などのように、これら労働者の行為が使用者の指揮監督下にあるときは、労働時間に含まれると考えます。

<POINT1.労働時間>

 労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間をいいます。裁判例においても、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきではないと解するのが相当であるとされています。

 

 なお、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29・1・20基発0120第3)では、「使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末清掃等)を事業場内において行った時間」を労働時間として取り扱わなければならないとしています。

 

 したがって、始業時間前および終業時間後の更衣所での制服の着脱に要する時間ならびに更衣所と事業場間の移動時間が、就業規則等に所定労働時間外に行うものとされている場合であっても、これら労働者の行為が使用者の指揮監督下に置かれているときは、労働基準法の労働時間に含まれることになると考えます。

 

 

<POINT2.指揮監督下>

 前記裁判例では、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のないかぎり、使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものであるかぎり、労働基準法の労働時間に該当すると解されるとされています。

 

 また、始業前の着替えおよび道具の準備をすることならびに業務の終了後の後片付けおよび着替えをすることが必要であったから、これらに要する時間を労働時間と認めつつ、それらの終了後退館するまでに要した時間は労働時間とは認められないとした判例もあります(鳥伸事件[大阪高判H29.3.3])。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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≪参考となる法令・通達など≫

□労働基準法32条

□平29.1.20基発0120第3

□三菱重工業長崎造船所事件[最判H12.3.9]

□鳥伸事件[大阪高判H29.3.3]