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■出張等の目的地に到着するまでの移動時間は労働時間にあたるのか?

 先日、電車にて出張していた従業員がいる。この出張に係る移動時間には、通常の勤務時間外である早朝および深夜の時間が含まれていた。これらの時間は労働時間に当たるのだろうか。

 また、会社から出張手当は支給されるのだが、その中に時間外手当が含まれているのかいないのかは判別できない。もしも時間外手当が含まれていない場合、支払わなければならないのだろうか。

 出張時間など目的地に到着するまでの時間については、原則として労働時間として取り扱わなくても問題はありません。

 しかし、これは、移動時間について使用者の指揮監督下にあるかどうかの判断によります(時間外手当についても同様のことがいえます)ので、その点について確認を要します。

<POINT1.使用者の指揮監督の有無>

 行政通達により「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取扱わなくても差支えない。」とされています。 これは休日労働についてのものですが、ここでは出張中の休日は使用者からの別段の指示がある場合の他は休日労働、つまり、労働時間としなくてよいとしています。

 

 つまり、今回のご相談のケースでいえば、乗車時間が使用者の指揮監督の下にあるかどうかによって判断されることになります

 

 なお、上司に随行して出張する場合、移動中も使用者の指揮監督の下にあることから、労働時間に当たるという主張をされることがありますが、単に上司とともにいるということと、上司の指示によりその指揮監督の下で業務を行うことは異なりますので、その実態により判断する必要があるでしょう。

 

 

<POINT2.労働時間>

 平成6年東京地裁では、 韓国に出張した労働者の時間外勤務手当について、労働協約の規定の解釈から、移動時間を同労働協約に規定された「実勤務時間」に当たらないと判断しています(横河電気事件[東京地判H6.9.27])。

 

 これに対し、平成7年の福岡高裁では、労働基準法の労働時間について、「労使間の合意、就業規則、労働協約、慣行等の当事者の意思によっては左右されることのない客観的な時間をいうものと解される。」と判断しています(三菱重工業事件[福岡高判H7.3.15])。これは、本来労働時間に算入されるべき活動を労働契約において義務付けながらこれを労働時間から除外することが可能となるところから判断されています。

 

 また、出張に伴う移動時間について、

  1.  果たすべき別段の用務を命じられるなど、具体的な労務に従事していたと認めるに足る証拠がない場合には労働時間に該当しない
  2.  納品物の運搬それ自体を出張の目的としている場合には労働時間に該当する
  3.  ツアー参加者の引率業務のサポートという具体的な労務の提供を伴う場合には労働時間に該当する 等

と判断された判例があり(ロア・アドバタイジング事件[東京地判H24.7.27])、さらに「航空機による海外出張の移動時間」について、フライト時間の限度で労働時間として扱うべきとした判例(国・三田労基署長(ヘキストジャパン)事件[東京地判H23.11.10])があります。

 

 これらのことから、出張時における移動時間については、一般的には使用者の指揮監督の下にある場合は労働時間に当たることになり、当該労働時間が法定労働時間をこえたものである場合や深夜の労働に当たるものである場合には、それぞれ時間外割増および深夜割増の適用を受けることになります。

 

 なお、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平29.1.20基発0120第3)では、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」としています。

 

 

<POINT3.出張手当>

 韓国に出張した労働者の時間外勤務手当について、労働協約の規定の解釈から、移動時間を同労働協約に規定された「実勤務時間」に当たらないと判断した平成6年東京地裁判決では、旅費規則により、海外出張手当が支給されていることが代償的な措置として考慮されています。

 

 これに対し、平成11年の名古屋地裁判決では、職能給、現場手当等に時間外勤務手当相当分を含む旨の給与規定につき、相当する分の金額的内訳が明らかにされていない場合は、割増賃金を支払ったものとはいえないと判断しています(ジオス(割増賃金)事件[名古屋地判H11.9.28])。

 

 これらのことから、出張手当に時間外勤務手当相当分を含む旨の給与規定があったとしても、相当する分の金額的内訳が明らかでないときは、時間外手当の支払いの余地があると考えます。

 

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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≪参考となる法令・通達など≫

□昭23.3.17基発461

□昭33.2.13基発90

□平29.1.20基発0120第3

□横河電気事件[東京地判H6.9.27]

□三菱重工業事件[福岡高判H7.3.15]

□ジオス(割増賃金)事件[名古屋地判H11.9.28]

□ロア・アドバタイジング事件[東京地判H24.7.27]

□国・三田労基署長(ヘキストジャパン)事件[東京地判H23.11.10]