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■期間の定めがある雇用契約と試用期間の区分

 雇用期間を1年と定めて採用した従業員に対し、この度、期間満了に伴う労働契約の解消を申し渡したところ、当の本人は「この1年は適性があるか否かを見極める試用期間であって、働きに何ら問題がなかったから、以後も正社員として継続して雇用されるはずだ」と主張してきた。

 

 どう扱ったらよいか?

 その設けられた雇用期間「期間を1年と定めた労働契約を締結した」とのことですが、その期間の定めがどのような意味をもつかによって対応の仕方は異なると考えます。

 労働契約が当然に終了するという期間であるのか、または、適性を判断するための試用期間であるのか、で、大きく異なってくると考えます。

 

 試用期間でないのであれば、当然、説明し理解いただき、納得いただく努力が必要です。

 近年、「働き方の多様化」の反映の1つとして短期の雇用期間をもうけた雇用形態が見受けられが、このような形態は労働動者・使用者双方にとって長所があると感じられる一方で、今回のようなトラブルも生じています。

 今回の1年間を試用期間と見るか否かはともかくとして、有期労働契約の更新をめぐるトラブルを防止するため、労働基準法施行規則の改正が平成24年に行われ、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条に基づき、労働契約締結の際に、書面を交付する方法または、労働者が希望した場合にはFAXや電子メール等(労働者が電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)を送信する方法で明示すべき労働条件の中に「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」が規定され、平成25年4月1日から施行されているので、留意しておくべきと考えます。

 

 いずれにせよ、労働契約に際して、使用者は適切な対応を求められています。

 

 

<POINT1.有期労働契約と試用期間>

 従来は、「期間の定めのない労動契約」が多かったのですが、近年、パートタイマー、アルバイトなど短期の雇用期間を設定する契約が増えてきています。

 使用者としては、会社の財政状況に応じて柔軟に雇用調整するため、または適性がないと判断される労働者であればすぐに雇用関係を解消できるようにするため、一定の期間を定めて、その期間が満了すれば労働契約は終了するとの取扱いをします。

 反面、労働者としては、その期間は適性があるか否かを見るための試用期間であるとして、その期間内に特に問題となることがなければ正式に継続雇用に切り替わるものと期待することがあります。このように、双方に雇用期間の意味合いについて食い違いを生ずることがありますので、労働契約を締結する際には、必ず「労働条件通知書」に契約期間と契約更新の有無などをハッキリと記入し、説明することが必要です。

 

 

<POINT2.使用者の言動>

 労働者が短期の雇用期間を試用期間であると主張する背景には、使用者の言動が大きく影響しています

 すなわち、雇用契約の締結の場面で、使用者が、当該労働者が会社にとってふさわしい人材であれば長く働いてほしいと考え、雇用契約が期間の定めをこえて継続する可能性が強いと労働者に期待させるような言動をした場合です。

 また、例えば、雇用期間の途中であっても「勤務状況を見て問題がなければとか、あるいは実績を積めば、正社員への道がある。」といった話を持ち出した場合です。

 最高裁の判決ですが、期間を定めて雇われた私立高校常勤講師の期間満了による雇止めの効力が争われた事件においては、「期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、その期間は契約の存続期間ではなく、期間の定めのない労働契約下の試用期間(解約権留保期間)と解すべきもの」 と判示(神戸弘陵学園事件[最判H2.6.5])しているものがあります。

 このように、使用者の言動は労働動契約の性格に大きく影響する場合があるので、しっかりした採用方針を持ち、短期の雇用を堅持するのであれば「当然に終了する期間であることの明確な合意」が必要と考えます。

 

<POINT3.試用期間>

 今回のようなケースについて、裁判所は、典型的な試用関係の法理をその判断におよぼす傾向が見られ、期間雇用の労働者の雇い止めを試用期間における解雇と同視して判断しています。「本件契約の期間は、その満了により雇用契約が当然に終了するとの趣旨のものではなく、Xの適性を評価、判断するための試用期間であったというべきである。そして、上記認定の各事実に照らせば、その法的性格は、解約権留保付雇用契約である」との判例があります(龍滞学館事件[盛岡地判H13.2.2])。この「留保付解約権」の行使にあたっては、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」 としています。

 このため、使用者が解約権を適切に行使するためには、相手方労働者の適性の欠如を具体的に示す必要があります。例えば、出勤率、勤務成績、勤務態度などが著しく不良であることを具体的に示すことなどが必要です。また、そのように判断したことの妥当性(使用者の恋意性の有無)が客観的に見られることが必要となります。

 

 

<POINT4.有期労働契約締結の際の労働条件の明示>

 労働契約を締結する場合、当初から期間の定めのない契約(無期労働契約)とする場合や、当初は有期労働契約を締結し、その期間満了後は改めて無期労働契約を締結する場合がありますが、有期労働契約の場合、多くはその更新や反復継続して更新するものが広く見られます。このため、これまで、有期労働契約については更新などをめぐって使用者・·労働者間で多くのトラブルが発生していたところであり、これらトラブルの防止を図るため、行政は、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)などに基づき指導を行ってきています。

 さらに、これらトラブルの未然防止に実効を上げる観点から、平成24年に、この「基準」のうち労働契約の締結の際に使用者がとるべき事項を廃止し(平成24年厚生労働省告示第551号)、同年に、この部分を罰則付きの法律である労働基準法第15条に基づいて書面の交付(なお、この書面の交付については、平成30年に労働基準法施行規則第5条が改正され、書面の交付のほかに、労働者が希望した場合にはFAXや記録の出力により書面化できる電子メール等を送信する方法によっても行うことができるようになりました。)によって明示しなければならない事項に追加する労働基準法施行規則の改正が行われました。

 すなわち、この平成24年の労働基準法施行規則の改正とは、労働契約を締結する際に書面による明示が必要な事項として同施行規則第5条第1項に掲げられたものに、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」が追加され、「更新の有無」と「契約更新の判断基準」を明らかにしなければならないというもので、平成25年4月1日から施行されています。

 具体的には、例えば、「更新の有無」として、

①自動的に更新する

②更新する場合があり得る

③契約の更新はしない

など。

 また、「契約更新の判断基準」として、

①契約期間満了時の業務量により判断する

②労働者の勤務成績、態度により判断する

③労働者の能力により判断する

④会社の経営状況により判断する

⑤従事している業務の進捗状況により判断する

 

などを明示することが行政通達によって示されています。

 

<POINT5.労働契約法の規定>

 

 使用者の雇止め(有期労働契約の更新拒否をいいます。)により有期労働契約は終了しますが、労働者において、有期労働契約の期間満了時にその有期契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合に、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めが認められず、労働者から更新の申込みなどの意思表示があれば、これまでと同一の労働条件で有期労働契約が更新される旨が労働契約法第19条に規定されているので、留意が必要です。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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≪参考となる法令・通達など≫

□労基法20条

□平15.10.22 厚労告357

□平24.10.26 基発1026第2

 

≪参考となる判例≫

□神戸弘陵学園事件[最判H2.6.5] 

□龍滞学館事件[盛岡地判H13.2.2]