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■労働契約を結ぶときに明示すべき労働条件とは

 私は親の代からの酒屋を営んでいるが、このたび、コンビニエンスストアにすることにした。

 今まで店は家族だけでやってきたが、これからは規模も少し大きくなるので、従業員を雇うつもり。

 雇い入れる従業員と労働契約を結ぶときには、どのような労働条件を明示すればよいのか。

 労働契約を結ぶときに、労働者に対して必ず明示しなければならない労働条件は、

①労働契約の期間

②期間の定めの全ある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

③就業の場所および従事すべき業務

④始業・終業の時刻、所定労働時間をこえる労働の有無、休憩時間、休日、休暇など

⑤賃金の決定、計算・支払の方法、質金の締切・支払の時期、昇給に関すること

⑥退職に関すること

 

の6項目があり、さらに、使用者がその定めをしている場合に明示しなければならない労働動条件として、

 

⑦退職手当を受けられる労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払の時期に関すること

⑧臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額などに関すること

⑨労働者の負担となる食費、作業用品などに関すること

⑩安全・衛生に関すること、⑪職業訓練に関すること

⑫災害補償·業務外の傷病扶助に関すること

⑬表彰・制裁に関すること

⑭休職に関すること

 

の8項目があります。

 

 これらの項目のうち、①から⑥については、書面を交付する方法または、労働者が希望した場合にはファクシミリや電子メール等を送信する方法によって明示しなければなりません(ただし、⑤のうち昇給に関することは除かれます。)。

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 従業員を雇い入れることになると、労働基準法上の使用者としていろいろな義務を負うことになり、労働契約を結ぶときには、雇い入れる従業員(パートタイマー、日々雇い入れる者なども含みます。)に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。

 

 

<POINT1.明示しなければならない労働条件>

 労働基準法第15条労働基準法施行規則第5条第1項においては、労働契約を結ぶときに、労働者に対して明示しなければならない労働条件の内容は次の事項とされており、これらのうち、①から⑥は、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)であり、⑦から⑭は、使用者がそのような事項について定めをしている場合に明示する必要があるとされているものです(相対的明示事項)。また、②については期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合にかぎります(平成25年4月1日から施行)。

 

①労働契約の期間に関する事項

②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

③就業の場所・従事すべき業務に関する事項

④始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働動者を2組以上に分けすて就業させる場合における就業時転換に関する事項

⑤賃金(⑥の退職手当と⑦の賃金を間換に関する事項番除きます。)の決定、計算・支払の方法、賃金の締切・支払の時期、昇給に関する事項

⑥退職に関する事項(解雇の事由を主含みます。)

⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算支払の方法、支払の時期に関する事項

⑧臨時に支払われる賃金(退職手当を除きます。)、賞与・これに準ずる賃金、最低賃金額に関する事項

⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

⑩安全・衛生に関する事項

⑪職業訓練に関する事項

⑫災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項

⑬表彰・制裁に関する事項

⑭休職に関する事項

 

 なお、③の「就業の場所・従事すべき業務に関する事項」については、雇入れ直後の場所と業務を具体的に明示することで足りますが、将来、他の店舗への転勤や配置転換をさせることが予想される場合には、それらの範囲を明示することが望まれます。

 また、労働基準法施行規則第5条第2項においては、使用者は労働動者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない、と規定されています。

 

 

<POINT2.明示の時期>

 使用者が労働者に対して労働条件を明示しなければならないのは、労働契約を結ぶときです。新しく労働契約を結ぶときだけでなく、契約期間が満了して契約を更新するときも労働条件の明示が必要となります。

 したがって、労働者の募集の時点では明示の必要はありませんし(ただし、職業安定法による募集条件の明示の義務はあります。)、雇入れ後に就業規則の変更などによって労働条件が変更されたときも、変更後の労働条件が規定された就業規則を周知しなければなりませんので明示の義務はないと解されています。

 

 

<POINT3.明示の方法>

 労働契約を結ぶときの前記の①から⑥の事項(前記⑤のうち昇給に関することは除きます。)については、労働基準法施行規則第5条第4項において、これらの事項が明らかとなる書面を交付する方法または、労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール等(労働者が電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものにかぎります。)。を送信する方法で明示しなければならないとされています。

 書面の内容は、就業規則などの規定がある場合には、その規定とあわせて、採用する従業員について確定できるものであればよいとされています。

 これら書面で明示しなければならない事項以外の労働条件については、どのような明示方法でもよく、文書でも口頭でもさしつかえありませんが、採用しようとする人が理解できる程度に示すことが必要です。また、前記①・②・③以外の項目は、いずれも就業規則の必要記載事項ですので、就業規則を作成しているのであれば、就業規則を提示して内容を理解させるように説明すれば足りることになります。

 

 

<POINT4.労働契約内容の理解の促進>

 労働契約についての原則をまとめた法律である「労働契約法」においても、労働契約の内容の理解の促進を図り、理解不足などによるトラブルの防止を図る趣旨から、第4条第2項で「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。」と規定しています。

 これは、前述の労働基準法第15条などで義務づけされている労働条件の明示の時期、内容よりその対象範囲が広く、労働契約の締結前や契約の途中で労働条件を変更しようとするときに変更後の労働条件を説明する場合、また、労働者が労働条件について説明を求めた場合など広く含まれます。また、内容についても、労働基準法で明示が義務づけられている事項のほか、それ以外の事項についても書面で確認することが求められています。

 なお、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期労働法)でも前記と同様の趣旨から、その雇用するパートタイマーから求めがあったときは、その待遇を決定するにあたって考慮した事項を説明しなければならない旨規定されています(パート・有期労働法14条)ので、これにも留意してください。

 

 

<POINT5.明示された労働条件が事実と相違する場合>

 先に述べたように、労働基準法施行規則第5条第2項において、明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない旨規定されていますが、明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができるとされています。また、この場合、就職(業)のために住居を変更した労働者が、契約解除から14日以内に帰郷(通常、就業する直前に労働者が居住していた場所まで帰ることなどをいいます。)するときには、使用者は、必要な旅費を負担しなければならないとされています(労基法15条2項・3項)。

 

 

≪参考となる法令·通達など≫

□労基法15条

□労基則5条

□労働契約法4条

□職安法18条など

□昭22.9.13発基17

□昭29.6.29基発355

□昭51.9.28基発690

□昭61.6.6基発333

□昭63.1.1基発1

□平11.1.29基発45

□平11.2.19基発81

□平20.2.20基発0220006

□平22.5.18基発0518第1

□平24.10.26基発1026第2

□平30.9.7基発0907第1

□平31.1.30基発0130第1、職発0130第6・雇均発0130第1・開発0130第1

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。