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■「労働契約」と「就業規則」

<Q>

 労働契約法では、労働者と使用者の合意をもとに労働契約が成立すると定める一方、一定の条件の下では就業規則で定める労働条件が労働契約の内容になると定めているが、労働契約法において就業規則はどう位置づけられているのか。

<A>

 労働基準法では、労働契約の成立に関する規定がなく、労働契約法に、労働契約の成立要件に関する規定をおくこととしました。

 

 また、わが国においては、個別に締結される労働契約では必ずしも詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することの多く見受けられますが、就業規則で定める労働条件と個別の労働者との労働契約の内容である労働条件との法的な関係については法令上必ずしも明らかになってはいませんでした。そこで、一定の条件の下で、就業規則の内容が労働契約の内容になる旨規定することされました。

<ポイント1.労働契約の成立>

 労働契約法第6条は、次のように規定しています。

 

【労働契約の成立】

第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

 

 労働基準法には、労働契約の成立に関する規定は存在しませんでしたが、労働契約法は、「労働契約は労働者および使用者の合意によって成立する」旨定めるとともに、「労働者が使用者に使用されて労働すること」および「使用者がこれに対して賃金を支払うこと」が合意の要素であることを定めたものです。

 

 このような契約を、 法的には「双務諸成契約」といいます。双方が義務を負い(労働者は、使用者に使用されて労働する義務を負い、使用者は、賃金を支払う義務を負う)、双方が承諾(合意)することによって成立する契約ということです。

 

 なお、民法においては、雇用契約に関し、その第623条において次のように規定されています。

 

【雇用】

第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

 

 ほぼ同趣旨の規定であり、特に明確な違いはないといっていいでしょう。労働契約法に関する厚生労働省の通達も、「民法第623条の「雇用」は、労働契約に該当するものであること」としています。

<ポイント2.労働契約と就業規則の関係>

 労働契約法第7条は、次のように規定しています。

 

第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

 

 わが国においては、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することのほうが一般的な印象です。しかし、就業規則で定める労働条件と個別の労働者との労働契約の内容である労働条件との法的な関係については法令上必ずしも明らかになってはいませんでした。そこで、労働契約法は、労働契約の成立場面における就業規則と労働契約との法的関係について規定しました。その法的な効果は、次のように考えられます。

 

 労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合に、

  • 合理的な労働条件が定められている就業規則であること
  • 就業規則を労働者に周知させていたこと

という要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、

  • 労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるという法的効果を生じる。

 

 つまり、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合であっても、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定するということです。

 

 「合理的な労働条件が定められた就業規則」とは、「不合理でない」通常の就業規則と考えてさしつかえありません。法律違反や、公序良俗に反しない普通の就業規則は「合理的な労働条件が定められた就業規則」といえると考えます。

 

 就業規則は、「労働者に周知」させておく必要がありますが、「周知」とは、例えば、

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいいます。

 

 第7条のただし書の意味は、労働契約で就業規則より高い労働条件を合意していた場合は、就業規則ではなく、その高いほうの労働条件によるということです。

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。