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■「復職」の規定について

<規定の目的>

 「復職」規定は、休職期間の満了日、あるいはそれ以前における復職の要件や手続、休職期間満了日に復職できない場合に退職扱いとすること等について定めています。

<ポイント1>

事由消滅に関する証明書(私傷病休職の場合は、会社の指定する医師の診断書)を添付し、書面で復職を願い出、会社の承認を得なければならない。

 休職事由のうち、とりわけ私傷病休職については、メンタルヘルス不調を訴える労働者の増加に伴い、「その事由が消滅」したといえるかどうかの判断に困難を伴うケースが増えています。

 そもそも、メンタルヘルス不調については、医師によっても「病気であるか否か」、「その病名は何か」という初期判断も区々である上、「治癒したか否か」、「治癒したとして、どのような仕事に就けるのか」といった休職期間満了時の判断においても、医師によってその判断が異なる場合も少なくありません。

 会社としては、復職要件を満たすかどうかの判断を明確化するためにも、また、実際には治癒していない労働者を復職させ、その結果、症状を増悪させたとして、安全配慮義務違反を問われないためにも、復職要件として、会社の指定する医師の診断書を求める旨の規定を整備しておくべきと考えます。

 

 会社の指定する医師の診断書を求めるのは、コンチネンタル·ォートモーティブ事件[東京高判H29.11.15])が参考になります。詳細は割愛しますが、当該事件は「主治医による診断書が二度にわたって提出されたものの、その記載内容が不自然に変遷していたという事案」であり、「被告を退職となることを避けたいという原告の意向が強く影響」した診断書が出されたものである為、会社の指定する医師の診断書の提出を求めることは必須であると考えます。

 

 また、当該判例では、主治医の診断書であっても、その記載内容が不自然に変遷する等していた場合には、その信用性が否定されることを示唆しており、実務上参考になります。

<ポイント2>

復職後の職務については、復職時に会社が定める。

 従来は、「復職後の職務は、従前の職務とする」旨を定める例が多かったのですが、片山組事件の最高裁判決[最判H10.4.9]以降、少なくとも職種限定のない、いわゆるジェネラリストに対する治癒の見極めにおいては、「従前の職務」に重きを置くのではなく、「(労働者の)能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、 当該企業における労働者の配置 異動の実情及び難易等」に照らして、「現実的配置可能業務」の有無によって判断する必要が出てきています。

 

 このため、就業規則の定め方としては、モデル規定のように、「復職後の職務については、復職時に会社が定める」とするほかないものと考えます。

<ポイント3>

復職できないと会社が判断したときは、退職とする。

 休職期間の満了日にその事由が消滅せず、復職できないと会社が判断した場合に、「当然退職」の扱いとする規定と、改めて会社が解雇の意思表示を行い「解雇する」とする規定のいずれも見受けられるところですが、モデル規定では、前者の定め方としています(後者の定め方による場合、 解雇予告等の労働基準法上の規制に服することとなります)。

 

 この場合、解雇の意思表示がなくとも、 休職事由が消滅していないと会社が判断した以上、当然に退職の扱いとなります。

 

 もっとも、そうした会社の判断の適否については、就業規則条項の解釈の問題(換言すれば、意思表示の解釈の問題)として、争われることとなります。

 私傷病休職のケースでは、まさしく治癒したかどうか、の判断問題です。

 

 「治癒」の判断基準については、片山組事件の最高裁判決[最判H10.4.9)が、その後の裁判実務にも大きな影響を与えています。

 

 すなわち、職種限定のない、いわゆるジェネラリストについては、「従前の職務」に重きを置くのではなく、「(労働者の)能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置異動の実情及び難易等」に照らし、「現実的配置可能業務」の有無によって判断がなされることとなります。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。