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■「労働契約法」の原則とは

 

 

<Q>

労働契約法には、労働契約の原則が定められているそうだが、どのような原則なのか。

また、その原則は強制力があるのか。

 

<A>

労働契約法は、労働契約の原則として、次の5つを挙げている。

①労使対等の原則

②均衡考慮

③仕事と生活の調和への配慮

④信義誠実の原則

⑤権利濫用の禁止

 

 

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 労働契約の原則について規定した労働契約法第3条の規定は、次のとおり。

 

(労働契約の原則)

第3条 労働契約は、労働者及び使用者対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

 2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、

   均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

 3 労働契約は、労働者及び使用者が、仕事と生活の調和にも

   配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

 4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義

   に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければ

   ならない。

 5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっ

   ては、それを濫用することがあってはならない。

 

以下、各項目ごとに簡単に説明します。

 

 

<POINT1.労使対等の原則>

 労働契約の締結、変更にあたっては、締結当事者である労働者および使用者の対等の立場における合意によるべきという「労使対等の原則」を規定したもので、労働基準法第2条第1項と同じ趣旨です。

 

<POINT2.均衡考慮>

 この条項は、政府提出の原案にはありませんでしたが、国会における審議の過程で加えられたものです。

 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期労働法」という)には、短時間・有期雇用労働者の賃金の決定にあたって、通常の労働者との均衡を考慮するよう努めることを求める規定があります(第10条)が、労働契約法第3条は、労働契約の当事者一般について、就業の実態に応じた均衡ある契約の締結を求めるものです。

 ただ、均衡を図る物差しについて明確なものを示すのは困難であり、本項は、理念的な規定であるといわれています

 しかし、均衡ある処遇を求める労働者から法的手続による要求があった場合には、使用者としては就業の実態に応じた均衡ある取扱いをしている旨の説明が必要になってくるものと考えます。

 

<POINT3.仕事と生活の調和への配慮>

 近年、仕事と生活の調和すなわち、ワーク・ライフ・バランスが重要な政策課題となっていますが、この項も国会における審議の過程で加えられたものです。

 「仕事と生活の調和」を直接に法的義務とすることは困難と思われ、「均衡考慮」以上に理念的な規定と考えられますが、過重な長時間労働、家族生活を無視した転勤命令、無理な海外出張等に対して、この規定を理由として労働者が拒否した場合の対応は、これまで以上に困難となる可能性があります。

 

<POINT4.信義誠実の原則>

 当事者が契約を遵守すべきことは契約一般の原則であって、民法においては「権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」旨規定されているところであり、本項は、その趣旨を労働契約に関して確認した規定です。

 労働基準法第2条第2項にも同趣旨の規定が存在します

 

<POINT5.権利濫用の禁止>

 当事者が契約に基づく権利を濫用してはならないことは、契約の一般原則であり、民法においては「権利の濫用は、これを許さない。」旨規定しています。本項は、これを労働契約に関して確認した規定です。

 なお、労働契約法においては、このほか、出向、懲戒、解雇に関する規定において、権利の濫用に関する定めをおいています。

 

 

≪参考となる法令·通達など≫

□労働契約法3条

□労基法2条

□パート・有期労働法8条、10条

□民法1条2項・3項

□平24.8.10基発0810第2

 

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。