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■在宅勤務を前提として障害者を採用する際の留意点

 

<Q>

 当社では、在宅での勤務が可能になるよう制度を整えたため、現在ではほぼ社内で勤務するのと同じくらいの条件での勤務ができるようになった。

 そういった取組もあり、今後人材を採用する際に、特に通勤に困難をともなう障害者を主に在宅での勤務を前提とする採用をしてみたいと考えている。

 この場合、どのようなことに気をつける必要があるか。

<A>

 身体障害や傷病、パニック障害等のため通勤が困難な障害者、コミュニケーションが苦手な発達障害や対人関係にストレスを感じやすい精神疾患のある障害者などにとって在宅勤務で雇用されるということは、家族のサポートも受けられ、慣れた自宅という環境で落ち着いて仕事ができる望ましい就労形態といえ、在宅勤務を適切かつ効果的に運用できれば、障害者だけでなく事業者もさまざまなメリットを享受することができる。

 ただし、障害の種類や程度により、導入にあたり解決または工夫すべき留意点も多くある。

 まずは、導入目的対象業務障害種別に応じたシステム·ツールの整備労働時間管理安全衛生の確保費用負担通常または緊急時の連絡方法情報セキュリティ対策など事前に労使で十分話し合い、ルールを定めておくことが重要と考える。

 

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<POINT1.在宅勤務>

 労働者が情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を利用して行う在宅勤務(テレワークの形態には、在宅勤務、サテライトオフィス勤務およびモバイル勤務の3種類がありますが、ここでは在宅勤務に限定して解説します。)は、オフィスでの勤務に比べて、働く時間や場所を柔軟に活用することが可能なため、労働者にとって通勤時間の短縮、通勤にともなう心身の負担の軽減、仕事に集中できる環境での業務の実施や仕事と生活の調和を図ることが可能となるなどのメリットがあります。

 また、使用者にとっても、業務効率化による生産性の向上や、家庭の事情による労働者の離職の防止、遠隔地に住む優秀な人材の確保、オフィスコストの削減等のメリットがあります。ICTを活用した在宅勤務は、近年、採用する企業が増え、急速に普及しています。さらに、新型コロナウイルス感染症問題は、在宅勤務を一気に推し進める契機となり、厚生労働省も働き方改革の推進の観点から「テレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月策定、令和3年2月改定。以下 「ガイドライン」といいます。)を公表し、その導入・定着を呼びかけています。そして、この流れは障害者の雇用の拡大にとっても重要な意味を持つことになりました。

 身体障害や傷病、パニック障害等のため通勤が困難離な障害者、コミュニケーションが苦手な発達障害や対人関係にストレスを感じやすい精神疾患のある障害者などにとって在宅勤務で雇用されるということは、家族のサポートも受けられ、慣れた自宅という環境で落ち着いて仕事ができる望ましい就労形態といえます

 在宅勤務による障害者雇用を、単に障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」といいます。)に基づく法定雇用率を満たす手段とのみ捉えるのではなく、今後ますます労働力不足が進む中で、企業の人材確保上重要な戦略の1つとして位置付けることが求められています。こうした意味で貴社の取組は望ましいと考えます。

 

 

<POINT2.在宅勤務の実施にあたっての留意点>

 在宅勤務を適切かつ効果的に運用できれば、障害者だけでなく事業者にとってもさまざまなメリットを享受することができます。ただし、障害の種類や程度により、導入にあたり解決または工夫すべき留意点も多くありますので、以下ガイドラインを中心にみていきます。

 

①導入にあたって

 障害者にかぎらず在宅勤務を制度として導入・実施するにあたっては、まず、導入目的、対象業務、対象労働者の範囲、実施の手続、労働時間自管理、費用負担、通常または緊急時の連絡方法等についてあらかじめ労使で十分話し合い、ルールを定めておくことがトラブルの未然防止のために重要です。

 

②対象業務

 在宅勤務の障害者に行ってもらう業務は、例えばデータ入力など切り出された単純業務というイメージがあるとすれば、「在宅でできる業務が足りない」ということになり、活用が難しくなってしまいます。

 しかし、ICTの進歩は目覚ましいものがあり、システム開発やデザインなどの専門業務やチームで行う業務も、ICTシステムを活用することにより、オフィスにいるかのように仕事ができるようになってきています。

 今回のコロナ禍を機に、不必要な押印や署名の廃止、書類のペーパーレス化、決裁の電子化、オンライン会議の導入など、既存業務の進め方の見直しに取り組み、できるだけ出社せずにすべての業務を在宅化するチャレンジも始まっています。したがって、対象業務については今後ますます拡大していくものと考えられます。

 

障害種別に応じたシステム、ツールの整備

 障害があっても不自由な点をカバペーするシステム・ツールを適切に活用することで、さまざまな業務に対応することが可能となります。

 肢体不自由者、視覚・聴覚障害者、言語障害者などについては、音声認識ソフト、キーボードマウス操作を助ける補助具、拡大読書器、画面読上げソフト、発声代行器などの就労支援機器がありますし、精神障害・発達障害者については、体調管理を含む自己管理をサポートするシステムがあります。さらに、ICTシステムを活用した毎日の朝会および定期的連絡、自宅訪問なども円滑な業務遂行にあたり重要です。

 

④労働時間管理

 労働基準法上、使用者の指揮命令下にある時間が労働時間となります。

 在宅勤務の場合、使用者による現認ができないため労働時間の把握について工夫が必要となります。ICTを活用し始業・終業時刻や休憩時間、中抜けの時間について把握することは可能ですし、その方法をあそらかじめ定めておくとよいと考えます。なお、長時間労働や深夜労働のおそれがある場合には、労務管理のシステムを使って自動で警報を表示するような方法も考えられます。また、労働者が始業・終業時刻を自ら決定することができるフレックスタイム制(労基法32条の3)による働き方も在宅勤務にはなじみやすい制度と考えます。

 

⑤安全衛生の確保

 在宅勤務にも労働安全衛生法等の関係法令が適用されますので、

ア 健康相談を行うことができる体制の整備(安衛法13条の3)

イ 労働者を雇い入れたときまたは作業内容を変更したときの安全または衛生のための教育(安衛法59条)

ウ 必要な健康診断とその事後措置(安衛法66条~66条の10)

エ 労働者に対する健康教育、「および健康相談その他労働者の健康増進を図るための措置(安衛法69条)

などは確実に行う必要があります。

 また、自宅の作業環境については、事務所衛生基準規則は適用されませんが、ガイドラインの別紙2で「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」が示されていますので活用してください。

 

⑥費用負担

 在宅勤務を行うことによって労働者に過度の負担が生ずることは望ましくありません。

 費用負担の取扱いは情報通信機器や作業用品の貸与の有無、インターネット利用料、電気料金の扱いなどをめぐり問題となり得ますが、個別の事情により異なってきますので、あらかじめ労使で十分に話し合い、合理的・客観的な定めを就業規則等に規定しておく必要があります(労基法89条5号)。

 

⑦労働災害の補償

 在宅勤務においても事業場における勤務と同様、労災保険給付の対象となります。

 ただし、私的行為等業務以外の原因によるものについては、業務上の災害とは認められませんので、この点を関係者に十分周知しておくことが望ましいと考えます。

 

⑧その他

 障害者については、障害者雇用促進法第36条に基づく「障害者差別禁止指針」および同法第36条の5に基づく「合理的配慮指針」に従う必要があります。

 また、在宅勤務においてもパワーハラスメント、セクシャルハラスメント等は起こり得ますので、事業主は関係法令・指針に基づく防止措置を講ずる必要があります。

 さらに情報漏えいの危険もありますので、企業・労働者が情報セキュリティ対策に不安を感じないよう総務省が作成している「テレワークセキュリティガイドライン」等を活用した対策を十分に講じておく必要があります。

 

 

≪参考となる法令·通達など≫

□テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省)

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html

□障害者テレワーク事例集(厚生労働省)

 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000617771.pdf

□障がい者の在宅雇用導入ガイドブック(厚生労働省)

 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000167968.pdf

 

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。