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■LGBTである者を雇用する場合の留意点

 

<Q>

 当社の採用募集にLGBTであることを明らかにしている者から応募があった。

 優秀な者であるため、ぜひとも採用したいと考えているが、LGBTである者を雇用する場合、どのようなことに留意すべきか。

 

<A>

 LGBTである者を雇用する場合は、採用後に生じる可能性のある問題に的確に対処することが重要となります。

 LGBTである者を雇用する場合に生じる問題で代表的のものとしては、LGBTである従業員に対するセクハラの防止、同性パートナーと同居している場合の配偶者手当等の支給、更衣室やトイレの使用、服装に対する制約、営業職等特定の職種から除外することの可否等があります。

 

 

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<POINT1.採用時における留意事項>

 LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダーの英語表記の頭文字をとったもので、セクシュアルマイノリティー(性的少数者)の総称とされています。

 LGBTである者については、障害者のように採用時に特別の配慮(身体障害者に対し採用試験の実施に際し特別な配慮を行う等)が必要になることはないと考えられます

 採用試験や面接についてはほかの応募者と同様の方法で実施し、採用・不採用を決定するにあたっても、通常用いられている評価基準により判断することになります。

 採用時の留意事項としては、面接等の場においてLGBTに関する詳細な質問をしないことがあげられます。

 但し、本人から、採用された場合に配慮してほしい事項や要望があり、それについて意見交換をすること(要求の全てに応じるのではく)、LGBTである者への対処方針等について意見を求めることは許容されると考えられます。

 なお、「職場におけるエイズ間題に関するガイドライン」(H7.2.20基発第75号・職発第97号)は、「事業者は、労働者の採用選考を行うに当たって、HIV検査を行わないこと」としています。ゲイ、レズビアンである者も当然に対象となり、当該者に対しHIV検査結果の提出を求めることはできません。

 

<POINT2.採用後生じる可能性のある問題への対処>

 LGBTである者の雇用に関しては、採用後に生じる可能性のある問題への的確な対処が重要となります。以下に、LGBTである者の雇用に関し生じる可能性がある代表的な問題点と対処にあたっての考え方について述べることとします。

(1)LGBTである従業員に対するセクハラの防止(就業規則の整備)

 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)では、「被害を受けた者(以下「被害者」という。)の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。」とされています。

 LGBTである従業員に対するセクハラの防止は当該者を採用した後に対処しなければならない問題の1つであり、まずは基本となる就業規則を整備することが必要となります。企業の就業規則においては、セクハラの防止に関する規定がもうけられているのが通例と思われますので、当該規定に性的指向または性自認に関わらないセクハラの防止について追加することが考えられます。

 

(2)同性のパートナーと同居している場合の配偶者手当等の支給

 配偶者手当等の支給要件を法律婚の場合に限定しているケースと事実婚であっても支給しているケースとに分かれます。

 法律婚に限定している場合は、婚姻の届出をしていない異性のカップルにも支給されないわけで、同性パートナーとの同居も法律婚に該当せず、支給対象外としても問題はありません。しかし、事実婚でも支給する場合に、異性のカップルであれば支給し、同性のカップルであれば支給しないということにすると、こうした労働条件の相違が果たして合理的な相違といえるのか疑義が生じることになります。

 我が国の婚姻制度において同性婚は認められていないことを踏まえ、当該相違は不合理でないとする考え方もありますが、近年におけるLGBTへの理解の進展その他社会的風潮の変化からして、不合理な相違であって無効と判断されることも考えられます。

 事実婚でも支給する場合は、同性カップルの同居に対しても支給対象とする方向で検討した方がよいと考えられます。

 

(3)更衣室、トイレの使用の問題

 更衣室やトイレは男性用と女性用に区分されていますが、トランスジェンダー(注)の従業員から身体上の性とは異なる区分の更衣室またはトイレの使用の要望があった場合、どう対応すればよいかという問題が生じます。

 LGBTへの理解が従前にくらべれば進んでいると思われますが、更衣室やトイレの使用について身体上の性が異なる者を抵抗なく受け入れるかというと、現状ではなかなか困難ではないかと考えられます。専用の更衣室をもうけたり、ジェンダーフリーのトイレに改装することも考えられますが、スペースの関係から従前からある更衣室が縮小したり、トイレの個室数等が減少し逆に不便をきたすことも考えられます。

 また、改修に要する費用の問題も発生します。現状では、身体上の性と一致する区分の更衣室またはトイレを使用することを受忍できるか否かについて、本人の性自認、性的指向の程度を慎重に見極めて対処することになると考えられます。受忍できるか否かは本人との話合いにより判断するしかありませんが、ほかの従業員の理解が現状では得にくいこと等を説明し、本人の納得を得るように努めることが考えられます。

 性同一性障害により男性(女性)が女性(男性)として行動することを強く望んでおり、それが抑制されると多大な精神的苦痛を被り仕事の遂行にも支障をきたすということであれば、身体上の性と異なる区分の更衣室またはトイレの使用を認めざるを得ないと考えますが、この場合は、ほかの従業員の理解を得ることが前提となりますので、ほかの従業員への丁寧な説明に留意し、理解を得るよう努める必要があります。ほかの従業員の理解を得るための手続が行われている間、身体上の性と異なる区分の更衣室またはトイレの使用を認めないことは許容されると考えます。

(注)身体上の性は男性であるが性自認は女性であり(自分を女性として意識)、性的指向(恋愛感情)は男性に向かっている、または身体上の性は女性であるが性自認は男性であり(自分を男性として意識)、性的指向(恋愛感情)は女性に向かっているといった性同一性障害者である者をいいます。

 

(4)健康診断の実施方法

 健康診断については、男女別の日程により実施することが多いと思われますが、トランスジェンダーの従業員については、会社指定の医療機関以外の医療機関での受診を認め、その結果を証明する書面を提出させるよう配慮することが考えられます(安衛法66条5項)。

 

(5)服装に対する制約

 トランスジェンダーの男性従業員が女装で出勤し就労した場合、LGBTへの十分な理解が得られていない現状から、職揚に混乱やトラブルが発生することが考えられます。使用者としては、本人に対し女装での出勤を控えるよう要請し納得を得るよう努めることが現実的な対応となります。

 職務命令により女装での出勤を禁止し、当該命令に反して女装での出勤が強行された場合は、解雇または何らかの懲戒処分を行うことができるかという問題が生じます。解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。

 また、懲戒処分については、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」(労働契約法15条)ということになります。

 当該処分が有効か否かは、女装での出勤が職場の秩序を著しく乱し、業務遂行においても著しい支障をきたしたかという点から判断されると考えられます

 

(6)営業職等特定の職種から除外すること

 LGBTである従業員が顧客等と接する機会が多い営業や窓口担当に就くと、LGBTへの理解が十分でない顧客等との間でトラブルが生じることがあります。LGBTであるという理由だけで営業や窓口担当から外し、ほかの業務や部署に配置転換した場合、当該配置転換は無効とされる可能性がありますが、現実に顧客等との間でトラブルが生じ営業面でマイナスとなっている場合は、当該配置転換は有効と考えられます。

 

(7)同性愛を禁止する国への赴任・出張をさせないこと

 中東やアフリカの一部の国では、ゲイやレズビアンによる同性愛行為を禁止し、違反した場合には罰則を利すという法律があるといわれています。

 これらの国については外務省への照会等で判明すると考えますが、こうした国にLGBTである従業員を赴任または出張させることは、使用者に労働者に対する安全配慮義務(労働契約法5条)があることからしても行うべきではないということになります。

 

<POINT3.公正な採用選考を行うための履歴書>

 最後に、相談への回答と直接の関係はありませんが、LGBTの方の採用選考について、その公正さを図る観点から、履歴書様式例が示されていますのでこれについて触れておきます。

 厚生労働省においては、公正な採保用選考を確保する観点から、これまで推奨してきたJIS規格の履歴書様式例が削除されたことから、令和3年4月に、独自に新たな履歴書様式例を作成し、企業においてこの様式例を活用するよう勧めています。

 この新たな様式例では、性自認の多様な在り方に対応するため、JIS規格の様式例では設けられていた性別欄は[男・女]の選択ではなく任意記載事項欄とされています(応募者が記載したい内容で記載することが可能となり、また、記載を希望しない場合は未記載となる場合があります)。

 また、この新たな様式例では、応募者のプライバシーの要素が非常に高い情報である「通勤時間」、「扶養家族数(配偶者を除く)」、「配偶者」そして「配偶者の扶養義務」の各欄がJIS規格の様式例から削除されています。

 同省よりこの様式例の活用の際の留意点などの理解の促進を図るため、周知用リーフレット「新たな履歴書の作成について」を作成しています。

 

<厚生労働省:別添 厚生労働省が作成した履歴書様式例>

 https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/000769665.pdf

 

<富山労働局:「~事業主の皆様へ~新たな履歴書の様式例の作成について」>

 https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/content/contents/000885665.pdf

 

 

≪参考となる法令·通達など≫

〇均等法11条

〇労働契約法5条、15条

〇安衛法66条5項

〇平18.10.11厚労告615

〇平7.2.20基発75・職発97

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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厚生労働省履歴書様式例2021
厚生労働省履歴書様式例2021.xls
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