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■内定者が音信不通になった場合、その内定を取り消すことができるのか

 

<Q>

 当社が採用内定を出した者に今後のスケジュールを内伝えるために連絡してみたこところ、電話に出ず、メールを送ってみても返信がまったくない状況となり、この者の対応に困っている。

 採用内定者が音信不通になった場合、この者の内定を取り消しても問題はないだろうか。

 

<A>

 複数の採用内定を得た学生等が本命の会社を残し、ほかの会社の内定を辞退することは当然起こりえますし、やむをえないことと考えます。

 そういった中で、その際に当該会社に何の連絡もしない者も散見されます。これがいわゆる「サイレント辞退」といわれるものです。

 社会人となろうとする者として常識を疑う行為といえますが、こうした事態も会社としては想定しておく必要があると考えます。

 実際にこのような事態が発生した場合には、まずは可能な範囲で、音信不通の内定者と連絡を取ることに尽力すべきです。

 それでも連絡が取れない場合には、内定取消し(解雇)を行うことも可能ですが、それよりは、いわゆる「サイレント辞退」の行為を解約申入れの意思の実現と解釈し、文書等により、「〇年○月○日までに連絡がない場合は、当該日

の2週間後の日付をもって内定を辞退したものとして取り扱います。」(一例)と通知し、実際そのように取り扱うことが考えられます。

 なお、 後日の紛争を避けるため、会社が講じてきた措置について詳細な記録を残しておくべきと考えます。

 

 

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<POINT1:サイレント辞退>

 採用内定の取消しに関する基本的な解説については、前掲Q&A(2021年8月4日「採用内定を取り消すことができるか」を参照してください。■採用内定を取り消すことができるか? - Epic & company ページ! (epic-company.net)

 従来、採用内定の取消しをめぐっては、内定の取消しの対象となった学生等の保護に関する議論が多かったところですが、昨今の人材確保難、売手市場においては、複数の採用内定を得た学生等が、本命の会社を除き内定を辞退するケースが当然ながら多くなっています。

 採用内定=労働契約の成立と捉えたとしても、民法第627条は 「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と定めていますので、採用内定者が辞退することは何ら問題ではなく、会社側は引き止めることはできません。寧ろ、内定辞退は内定制度に内包されたリスクと考えて行動することが求められます。

 但し、その際に内定者は内定を辞退することになった会社に速やかにその旨の連絡を行うべきですが、中には、何らこれをしない者も散見されます。これが、いわゆる 「サイレント辞退」と称されるもので、企業の人事担当者の悩みの種となっています。

 出内定者側からすると辞退の連絡をすると、怒られる、気まずい、万一の場羽合に備え保留しておきたい、失念したなどさまざまな理由が考えられますが、いずれにしても採用内定を出した会社に対し極めて迷惑かつ失礼な行為といわざるを得ません。

 

 

<POINT2:音信不通者への対応>

 採用内定者と連絡が取れなくなった場合、そのほとんどは前記のいわゆる「サイレント辞退」に該当すると考えられます。

 しかし、中には、何らかの理由により連絡したくても連絡できない内定者もわずかながら含まれると考えられますので、会社としては、次の採用活動に移るため、まずは可能な範囲で、音信不通の内定者と連絡を取ることを優先すべきと考えます。例えば、留守番電話の利用、本人以外の連絡先(実家や大学など)への連絡、文書の送付、現住所への訪問などです。これにより連絡が取れた場合には、本人と話し合い、採用内定の継続、内定者側からの内定辞退、合意解約のいずれかを選択することになります。

 内定辞退または合意解約の場合には、後日の紛争を避けるため文書を徴し、または作成しておくべきと考えます。

 

 

<POINT3:音信不通者と最後まで連絡が取れない場合>

 最後まで本人と連絡が取れない場合には、内定取消し=解雇の意思表示を行うことも考えられますが、解雇については、労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されており、実際に争いとなった場合には会社側に解雇理由の立証責任が生じますので、できれば避けたいです。

 一方、解釈例規には、かつての炭鉱におけるケースについて、労働者が無断退山した場合は、その労働者の解約申入れの黙示の意思表示があったと解釈し、民法第627条により退山後2週間経過した後、籍を除く取扱いでよいか、との問いに「無断退山が明かに労働者の解約申入の意思表示であると認められるべき限り、見解の通り取扱るって差し支えない」(昭和23年3月31日基発第513号)とする通達があります。これは、労働者が明確な意思表示はしをていないが、退山という現実の行為を解約申入れの意思の実現と解釈するものです。

 今回の件について具体的にあてはめると、音信不通の内定者に対し文書等により、「○年○月○日までに連絡がない場合は、当該日の2週間後の日付をもって内定を辞退したものとして取り扱います。」(一例)と通知し、実際にもそのように取り扱うというものです。

 なお、後日の紛争を避けるため、この間に会社が講じてきた措置について、詳細な記録を必ず残しておきましょう

 

 

<POINT4:未然防止>

 このような事態が生じないよう、会社としては、採用内定を出す前に現住所や複数の連絡先や連絡方法を把握しておき、内定を辞退する場合には速やかに連絡してほしい旨を十分説明しておくべきと考えます。

 

 

≪参考となる法令、通達など≫

●労働契約法16条

●民法627条

●昭23.3.31基発513号

 

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。