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■採用時にタトゥーの有無を調査して良いか???

 

<Q>

 当社は接客がおもな業務であるため、タトゥーのある者は不採用にしたい。そのため採用の際にタトゥーの有無を調査してもよいか?

 調査に際してはタトゥーのある部位、タトゥーの大きさ、図柄について特定すべきか?

 また、虚偽の申告をし、採用内定後にタトゥーがあることが判明した場合は、採用内定を取り消すことができるか?

 

<A>

 採用の際にタトゥーの有無を調査することは一般的には計容されると考えられております。

 また、調査に際しタトゥーの部位等を特定することは困難であり、部位等を特定せずタトゥー全般を調査対象とせざるをえないと考えられます。

 虚偽の申告により採用内定とし、その後、タトゥーがあることが判明した場合は、虚偽の申告をしたこと自体が採用内定の取消事由(取消事由として規定してあることが前提条件)になり、当該採用内定の取消しは、客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものと考えられます。

 ただし、採用内定の取消しが裁判で争われる場合には、虚偽の申告にもかかわらず、採用内定の取消しを無効と判断されることがあることも考えられないわけではありません。

 企業がタトゥーを問題視するのは、顧客、取引先等がタトゥーを見て不快となり、あるいは不安感や威圧感をもつことによって、企業経営にマイナスの影響が生じることを懸念するからといえます。従業員にタトゥーがあることが企業活動にマイナスとなること、タトゥーがある者を採用しないことについての理由を明確にしておくことが重要です(乏しいと採用内定の取消しを無効と判断されることも考えられます)。

 

<Check1>タトゥーに関する調査は可能か

 採用の際にタトゥーの有無を調査することは一般的には許容されると考えらております。

 入れ墨の有無を把握するため全従業員に対する調査を実施し、これを拒否した従業員に対しなされた懲戒処分の有効性が争われた事件においては、「現時点の我が国において、 反社会的組織の構成員に入れ墨をしている者が多くいることは公知の事実であり、 他人に入れ墨を見せられることで不安感や威圧感を持つことは偏見によるものであって、他人から入れ墨を見せられないように配慮することが許されないことであるといえる状況にはないというべきである。むしろ、そのような配慮は、現状において社会的相当性を有するものといえるのであって、控訴人職員の入れ墨が市民等の目に触れないよう、人事配置上の配慮のためにする本件調査の目的は正当というべきである」としており、当該調査に回答することを求める職務命令を適法と判断しています(大阪市・市交通局長(入れ墨調査)事件[大阪高判平27.10.15])。

 本判決は、すでに雇用されている職員に対する調査であり、採用時における調査ではありませんが、企業には、法律による特別の規制がある場合(例えば、男女雇用機会均等法上の募集・採用に関する差別の禁止等)を除き、 採用の自由(労働者を選択する自由)が広く認められていることから、タトゥーの有無を採用の基準とし、本判決と同様の調査を行うことは適法であると解されております。

 一般に、「応募者に対する調査は、 社会通念上妥当な方法で行われることが必要で、応募者の人格やプライバシーなどの侵害になるような態様での調査は慎まなければならない(事案によっては不法行為となりうる)。また、調査の事項についても、企業が質問や調査をなしうるのは応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限られると解すべきである。」(菅野和夫「労働法」(弘文堂、第11版補正版、2017年)218頁)とされますが、タトゥーに関する調査は、従業員としての適格性に関連した事項と解することができると考えます。

 なお、本判決は、当該調査が、個人の尊重について規定する日本国憲法第13条および表現の自由について規定する日本国憲法第21条に反しないとしています

 また、大阪市の個人情報保護条例は、「思想、信条及び宗教に関する個人情報並びに人種、民族、 犯罪歴その他社会的差別の原因となるおそれがあると認められる事項に関する個人情報を収集してはならない」と規定しているところ、当該調査は、これらの個人情報の収集にはあたらないとしています。タトゥーがあることが知られることにより特定の個人が社会的に不当な差別を受けるおそれがあると一概にはいえませんし、タトゥーに関する調査がただちに人格やプライバシーの侵害にあたるとはいえないと解されます。

 

<Check2>調査の対象とするタトゥーの部位について

 前述の大阪市交通局の事件においては、調査対象とされた入れ墨の部位が、「肩から指先まで、首から上、 膝から足の指先まで」とされています。この意味は、着衣の状況等により目視可能となる部位を含むということだと思われます。例えば、ノーネクタイでシャツの第一ボタンを外していること、シャツの袖やズボンをたくし上げていること、半そでシャツを着ていること、バスの運転手が手袋を外していること等が考えられます。

 タトゥーの調査に際しては、顔にあるタトゥーなど通常目視される部位に加え、着衣の状況を変化させる等により目視可能となる部位を対象とし、それ以外の部位を対象としないことが考えられますが、この場合、衣服を脱がなければ目視できないような部位であれば許容されるという考えに立つことになります。そのように割り切ることもできますが、割り切ることができない場合は、調査の対象部位を限定しなくてもさしつかえないと考えられております。

 

<Check3>タトゥーの大きさや図柄について

 タトゥーには、身体の広範囲におよぶものからワンポイントのものまであり、図柄も多岐にわたります。 タトゥーの大きさや図柄について大まかな範囲を示して調査することも考えられますが、タトゥーの多きさや図柄について、これは許容される、これは許容されないという明確な基準はありませんし、一般的には、皮膚の真皮にまで色を入れ、簡単には消すことができないタトゥー全般を調査対象とすることになると思われます。皮膚の表皮のみに色を入れるいわゆるアートメイクは化粧の範聯に入り、タトゥーの範聯には入らないとされます。

 

<Check4>採用内定の取消しについて

 タトゥーについての調査が許容されても、タトゥーがあることを理由に採用内定を取り消すことは別問題です。

 採用内定の法的性格は、採用内定通知の段階で、就労の始期を大学卒業直後とし、一定の取消事由に基づく解約権が留保された労働契約が成立したものとされています(大日本印刷採用内定取消事件[最判昭54.7.20]、労働契約の効力は採用通知に示された採用の日に発生するとするものに、電電公社採用内定取消事件[最判昭55.5.30])。

 解約権については、採用内定者から徴求する誓約書等に内定の取消事由を記載し、これに基づき行使することになります。取消事由としては、大学を卒業できなくなったこと、履歴書等の記載内容に事実と異なる点があること、健康状態が悪化し勤務に耐えられないと認められること等があります。「その他の事由により入社後の勤務が不適当と認められるとき」といった幅広く判断できる事項も記載されることが一般的であり、タトゥーがあることを内定取消しの事由とする場合は、こうした一般的取消事由に基づくことになります。

 採用内定の取消事由は、前掲最高裁判決(大日本印刷採用内定取消事件)によれば、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされ、これに該当しない事実を理由とする内定取消しは、解約権の濫用として無効となります。

 今回のケースの場合は、採用内定の前にタトゥーの有無を調査のであって、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実には該当しません。

 採用内定の取消しが問題となるのは、ご質問にあるように、虚偽の申告により採用内定とし、その後の入社前面接や第三者からの通報等によってタトゥーがあることが判明した場合であり、極めてレアケースということになります。この場合、虚偽の申告をしたこと自体が採用内定の取消事由になり、当該採用内定の取消しは、客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものと考えられます。

 ただし、採用内定の取消しの効力が裁判で争われる場合は、虚偽の申告を採用内定の取消事由としていても、タトゥーの有無を調査することの是非やタトゥーがあることが真に企業活動にマイナスの影響を与えるかといった点が争われ、その結果、一採用内定の取消しが無効と判断されるケースも考えられないわけではありません。

 企業がタトゥーを問題視するのは、顧客、取引先等がタトゥーを見て不快となり、あるいは不安感や威圧感をもつことによって、企業経営にマイナスの影響が生じることを懸念するからといえます。従業員にタトゥーがあることが当該企業の業態、営業の方法等に関連してどのようなマイナスの影響をもたらすかについて、その具体的内容と理由を明確にしておくことが必要であり、過去にタトゥーがある従業員について苦情があった際の当該苦情の具体的内容等を整理しておくことも必要と考えます。

 

 

≪参考となる判例≫

□大日本印刷採用内定取消事件[最判S54.7.20]

□電電公社採用内定取消事件[最判S55.5.30]

□大阪市 · 市交通局長(入れ墨調査)事件[大阪高判H27.10.15]

 

 

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております。